人生の鮮やかな場面
久しぶりに忙しい一日をもった。
昨日は普段より2時間早く家を出た。12時から2回目の局試写がある。その2時間前に、番組を通しで見てコメントのチェックをしておこうと考えた。赤坂のオフィスに入ったのが10時過ぎ、さっそくディレクターのIさんと読み合わせにかかる。
おおよそのアタリをつけて、試写に臨んだ。結果は、まず悪くなかった。これで、いよいよ「日本の現場」の制作は最後の仕上げの段階に入っていく。
10月11日の番組のタイトルを少し変えた。新しいのは次のとおりだ。
日本の現場「ちばてつや 再びの”マンガ魂”~ありがとうトキワ荘の仲間~」
午後は試写で指摘された、視聴者にとって判りづらい部分の工夫やコメントの直しをチョコチョコやる。この試写には音響効果のSさんも参加した。彼はベテランの音効マンで、これまでも「向田邦子」「美空ひばり」のドキュメントでいっしょに作品を作っている。そのSさんは初めてこの「日本の現場」という作品を見て、面白いと言ってくれた。心強い。そのSさんとも打ち合わせをし、編集マンのS君とも相談して、作品をさらにブラッシュアップさせた。
その作業が終わったのが夜7時半。
フィギュアの取材をしているチームから連絡が入り、今、渋谷パルコで伝説の原型師ボーメの展覧会の前夜祭が行われているという。駆けつけた。パーティ会場には、海洋堂の宮脇社長を筆頭にボーメさんや業界関係者が多数参加していた。やがて、世界の村上隆さんも登場。今、海外でもっとも知られる日本人アーチストだ。先頃、彼が制作した作品が16億円で取引されて話題になった。会場にはそういう美術関係者、オタクの情報誌のライターやパルコの関係者が集まっているようだ。会場で、懐かしい顔を3、4人見かける。今年の冬に六本木で「ウルトラ大博覧会」をいっしょにやった人たちだ。また、いっしょに何かやりましょうよと、有り難い言葉をもらう。
立食パーティなので、腹ぺこの私は並んでいたイタリア料理を口に頬張る。パルコのダイニングだけあってうまい。このパーティは9時半まで続いた。
10時、渋谷駅まで風に吹かれながら帰る。
帰宅して風呂に入ったあと、小説を読みたくなり、白石一文の『不自由な心』を鞄から出して読む。白石は最近売れている若手の作家で、恋愛小説の名手と言われている。2、3冊これまでにも読んだことがあり、結構好きな作家だ。彼の父が白石一郎と知ったときは驚いた。白石は博多在住の海洋時代小説の作家で、直木賞を受賞したとき、私は福岡まで出向いたことがあったからだ。あの朴訥とした作家の子息がこんなシティ派の小説を書くとは思いもよらなかった。
「天気雨」という短編に、あった一言が心に残る。52歳の胃がんを患った初老の男が、いささか自分の人生を悔いて言うセリフだ。
「結婚には失敗しましたが、仕事や子育てはそこそこでしょうか。そんなもんです。無理に思い出せばたくさんあるのですが、自然に湧き起こってくる人生の鮮やかな場面というものが、どうも私にはない。淋しいものです。」
人生の鮮やかな場面―私にはあるか。あるといいたい。口にするとシャボン玉のように消えてしまいそうだから言わないが、あるよな。
そう思えるぐらい、昨日は楽しかった。やはり、仕事をしているときが楽しい。
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