ハモニカ吹かばや
木々の陰が濃いツヴァイクの道を下る。木洩れ日が道に丸い斑の群れを作っている。はるか麓は青く茂った夏草が光っている。森のなかから空を見上げても、かぶさる葉群でわずかしか見えない。あたり一面せみ時雨。時折風が吹く。ものかは、汗は吹き出てくる。
朝の通勤に、ツヴァイク道に立つと、これほど美しい風景を独り占めしていいのだろうかとつくづく思う。九十九折の小さな坂が2,300メートル続くだけの道だが、谷あいとあって人っ子一人通らない。夏であれば蝉、春先にはウグイス、秋には山鳩が鳴くだけの細道。
今朝は歩いていて、カバンの中にあるハーモニカを思い出した。周りを見渡しても誰も居ない。カバンの内ポケットにある青いハーモニカケースを取り出す。久しぶりだ。
ちょっと吹いてみた。みんみん蝉の合唱はやまない。(これなら、音色もそれほど広がらず、誰にも聞かれないだろう)
春先にハーモニカを買って以来、ずっと練習している曲「春の日の花と輝く」を吹いてみた。スコットランド民謡の懐かしいメロディ。吹きながら歩く。見ると、足元に黒い揚羽が飛んでいる。ハーメルンの笛吹きの気分だ。調子にのって2コーラス吹いた。
ちょうど麓に着き、ハーモニカをしまうと、それまで聞こえなかったせみ時雨が一斉に始まった。こはいかに。
私のハーモニカの間は蝉が鳴くのをやめていたのか。それとも、吹いている間は私には蝉の声が聞こえなかったのか。
いずれにしろ、一句出来た。忘れないうちに記しておく。
森蔭でハモニカ吹かばや蝉のやむ
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