スケベ良
近頃、セクハラなんて言葉が生まれてから、ジジイがする猥談を耳にすることがとんとなくなった。ところが、ここに猥談の名人がいる。
朝から、池部良のエッセーを読んで一人で腹をかかえて笑い転げている。馬鹿馬鹿しいのと、オトナの男の幼稚さが入り混じった池部文体。ダッチョ、カンジタ、マラ何とかって病気つまりマラリヤ、痔と便秘、梅毒、お尻の残温、左ボクゼンの十・五.桜紙の押さえ,等等。よくまあ、こんなに卑猥語・表現が出てくるものだ。漱石の悪口雑言尽しに匹敵するのではないか。抱腹絶倒の猥談オンパレード。たいへんな「芸」だ。
そこに出てくる話はいずれもノンフィクションとは言い難い。それらしき話の種はあったのではあろうが、真実とは思えない。かなり針小棒大に脚色してあるとみた。なあんて、野暮なことは言わずに池部独特のサービス精神を味わえばいいのだ。おもてなしという本来の意味でのエンターテインメントに池部は徹している。それにしても、話がよく出来ていて飽かずに読ませる。中で、私のお気にいりの作品は「恥骨」。
そのエッセー、友人の娘の仲人を頼まれたときに、スピーチで語ったという設定になっている。新郎新婦を見ていたら、昔出演した「青い山脈」の撮影のことを思い出したのだと、池部は話のマクラを切り出す。そこで共演した美少女、杉葉子の話に及ぶ。当時としては珍しくモダンなグラマーな女性だったと、思わせぶりな口調。その杉が池部に水泳を教えてくれと千葉の海岸で“懇望”した。寒いから嫌だと一旦断ったが、懇望もだし難く池部は教えることを引き受けた。
《胸元まで浸かってから、杉君、僕の手の平に君のお腹を当てて、犬掻きをやってごらんと言いましたら、彼女はやりました。私は腕を差し出し、手のひらを開いているだけで動きませんでしたが、彼女がばちゃばちゃやる度に、彼女の身体が少しずつ前へ移動しまして、ついに私の手のひらに彼女の恥骨、つまり恥ずかしい骨と書きます、女性特有の下腹部で盛り上がっている骨ですが、そこが私の手のひらに、ぴたりと当たり、更に移動したら、次第に生暖かく、吸い付いてくる感じにな…》
と、ここで新婦の父が慌てて止めに入ったと、池部は残念そうに書いている。
後年、池部良はスケベ良と異名をとったという。私は納得。
しかし、「青い山脈」に、こんなエピソードがあるとは思いもよらなかった。新制女子高生新子と旧制高校生六助の恋物語。敗戦直後の虚脱した日本に青春の息吹を吹き込んだといわれた名作の裏に、かくもオクユカシイ話が隠されていたとは。さらに驚くのは、この高校生六助を演じたとき、池部は31歳だったというではないか。南方の戦場から帰還した兵隊がかくも瑞々しい演技を満天下に示すことができたのも、こういう池部のきわめて人間臭い生き方、人となりに由来していたにちがいない。
ところで、20代後半にあって高校生を演じたぺ・ヨンジュンらは、その裏側にどんなエピソードが秘められているのだろうか。
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