奇遇というか
大学では3つの主題のドキュメンタリーが制作されていて、4月に企画を立て5月に取材をし、6月は編集の段階に入っている。それぞれのネタはユニークだ。
学生が贔屓にしている食堂SAWARA。北白川のラーメン激戦区のラーメン店相互協力。先斗町の置屋さんお茶屋さんの内部潜入。
どれも、若者が感じ取った現象でそれなりに面白い。そのなかで先斗町チームは女子学生Aさんの発案でディレクターも彼女が行っている。
この企画は彼女が先斗町のラウンジでアルバイトしていることから生まれた。そのラウンジのママは、先斗町の有名なお茶屋の女将さんで、その伝手で今回取材が許されている。実際に舞妓さん芸妓さんの化粧や着付けなど、めったに撮影できない女性の聖域までカメラは深く潜入している。こういう撮影が可能になったのは、ディレクターAさん、カメラマンBさんともに女性という体勢だからかもしれない。
そのAさんが私に一枚の紙を渡してくれた。見ると、文楽三味線の鶴澤清治さんからのメモだった。それは私と鶴澤さんしか知らないある計画についての返事であった。驚いて、なぜこんなメモをあなたが持っているのかと聞くと、鶴澤さんは彼女のアルバイト先の常連で、店でたまたま今回の先斗町ドキュメンタリーの話が出たそうだ。そこに居合わせた鶴澤さんがぼくも去年テレビに3ヶ月密着されたことがあるよと話したことから、私の名前が出た。
その人が私の先生ですと、Aさんが話して、鶴澤さんは驚くやら喜ぶやらでメモを彼女に託した。
一方、私はそのメモに驚いたが、夕方三条大橋で打ち合わせがあったので、すぐには電話が出来なかった。私の好きなミンミンでギョーザ定食を食べながら、打ち合わせは意外に簡単に終わった。その後、鶴澤さんのケータイに電話をしたところ、同じ三条で夕食をとっているから店まで来ないかと呼びかけられた。
いそいそと、そのおばんざい屋へ私は出向いた。カウンターで鶴澤清治さんがすき焼き鍋を食べていた。「お久しぶりです」と声をかけると、鶴澤さんは嬉しそうに手招きする。
再会をおおいに互いに喜んだ。話は盛り上がって、そのAさんがアルバイトしている店に行ってみようということになった。
そのラウンジはお茶屋の一階にある。つまり、ラウンジの上はお茶屋のお座敷。だから女将は2階では女将さん、1階ではラウンジのママとなり、Aさんは一階のアシスタントとしてカウンターのなかに入っていた。
それからは、この奇遇を話の軸に、おおいに盛り上がり、先斗町の夜は更けるのであった。