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定年再出発  


懐かしい空
by yamato-y
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冬のソナタは物語だ

「冬のソナタ」から考える①

出来事というのは、「物語」を盛り込むことなしに語れないと、内田樹師は記す。
冬のソナタというタイトルで括られる出来事は物語構造をもっているのだ。物語構造の基本は始まり部分(the bigining)があって、ある経過があって(必ずしも時間経過だけとは限らない)山場(もしくは、アンチクライマックスとしての谷場)があって、やがて収束に向かう終わり部分(the ending)がある。これが時間系列で語られたり、出来事の因果関係で語られたりする。これが物語構造。
 お話を作るということは、意味のある断片をつないで「意味の通る」文脈を作るのではない。逆だ。物語という文脈が決まって、断片の意味がはっきりするのだ。

この場合、物語はストーリー(story)を意味するのではない。narative(語り方、語り口)というものを指す。ウラジミール・プロップは昔話を分析した結果、キャラクターは7種類、物語の構成要素は多くて31しかないということを発見した。
例:家族の誰かが行方不明になる。 主人公はその探索を命じられる。贈与者が呪具を与える。呪具を利用して移動する。悪者と闘う。主人公の偽物が現れる。など
 
内田師は喝破する。《私たちが面白いと思うストーリーラインというのは、たいてい昔からある必勝パターンをなぞっているにすぎない。つまり、物語の構造分析とは、有限数の物語構造を反復しているだけだ。》

ここがポイントだ。物語の構造というのは限られた数の組み合わせのパターンからできているということ。

冬のソナタが評判になり始めた頃、2004年初頭の衛星第2放送でオンエアーされていた頃、日本の(特に男性)評論家や識者はさかんに、「冬のソナタ」は日本の「赤いシリーズ」や「キャンディ・キャンディ」の真似だと言い立てた。岩井俊二監督の日本映画「ラブレター」から影響を受けたのではという話もあった。つまり。日本のほうが優れていているというナショナリズム的言説だ。

後に親しくなってから、私はユン監督にそういうことがあったかと聞いたことがある。いずれも見ていないし読んだこともなかったと答えた。
そういう話を聞かされたので、岩井さんの「ラブレター」を見ましたが、とても面白かったです、感心しましたと語った。別に「ラブレター」から学んだわけではない。古今のいろいろなメロドラマからユンさんは学んでいる。どちらかと言えば、日本では村上春樹の「ノルウェーの森」に深く傾倒し、映像ではフランスのエリック・ロメールに注目していた。

真似をしているから2流だというのは矯(た)めにする議論でしかない。
繰り返すが、物語のパターンというのは限られた数しかない。その組み合わせと設定の差しかない。まさに差異と反復なのだ。

「冬のソナタ」はメロドラマという物語構造にしっかり立脚している。その王道を行ったと考えるのが妥当ではないだろうか。

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by yamato-y | 2008-06-15 14:41 | 冬のソナタを考える | Comments(3)
Commented by monsieur-meuniere at 2008-06-15 15:51
こんにちは。非常に興味深い論考ですね!yamatoさんがこれからどんな話を展開されるのか非常に楽しみです。外野の勝手な希望ですが、『ポスト・テレビ制作入門』に位置づけられるような物語論/制作論が出てくるのを期待しております!
Commented by monsieur-meuniere at 2008-06-15 15:52
それにしても「出来事」は物語を盛り込むしかない、というのはそもそも何故なのでしょう?…もしかすると、「出来事」こそ、語りえない何か、つまりトラウマなのではないでしょうか。ロランバルトは、写真論の中で「プンクトゥム」という言葉を使って、主題には収まりきれない特異性のようなもの、何か見る主体を貫くようなものについて語っていますが、そういうものが「出来事」にはある気がします。しかし「それ」を「そのまま」表現するのは不可能です。言葉は、いつだってその「語りえないこと」の周りを逡巡しています。言い換えれば、その逡巡する運動のことを僕らは「物語」と言ってるのではないでしょうか。最近、僕はそんな風に考えております。ヒッチコックの言う「マクガフィン」も、それは、「出来事」を「代理」して被っているのではないでしょうか。その「代理=言葉」の移動こそが物語といえませんか。小さな子どもが「いないいない・ばあ」をやって喜ぶのは、そこに物語=言葉=代理の原初的な体験があるからではないでしょうか。
Commented by monsieur-meuniere at 2008-06-15 16:05
ところで、今「代理」と言いましたが、ドキュメンタリーもドラマも興味を持っておられるyamatoさんに伺ってみたいことがあります。yamatoさんは、representという言葉をどのように訳されますか?一つは、表象ですね。文化的に表象する、という意味です。それからもう一つは、代表、代弁ですね。政治的に(弱者の声などを)代弁する、という意味になります。ドラマは恐らく私たちの欲望を文化的に表象している、ということになると思うのですが、ドキュメンタリーは果たして文化の表象をしているのか、それとも、例えば「誰かの思いを代弁している」のか、テレビってそこが非常に曖昧な気がします。いや、曖昧だからテレビ的という言葉があるのかもしれないなとも思うのですが…まとまらなくてすみません。簡単に言えば、今回の秋葉原の事件をyamatoさんなら番組としてどう描くのか、ちょっと気になっていたのです。「アキバ文化」を追ってきた一方で、「若者の雇用条件」にも関心を持っておられるyamatoさんにとって、あれは文化の話なのか、政治の話なのか、聞いてみたかったんです。番組にするならどう構成されますか?
長くなってすみません。
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