白鳥路
ふるさとへ帰って、アルバムに一枚の写真を見つけた。
金沢のお城のそばの白鳥路の40年前の写真だ。当時、私は城内にあった大学へ通っていた。大手門のすぐ傍にある遊歩道だ。右側の土手を登ると城内になり大学のグラウンドとなっていた。
この道のスケールは昔と同じだが、現在はもっと観光化して飾りつけなどがなされていると聞く。私が学び舎に通った頃は通学する高校生の一群と散歩をする老人しか見かけなかった。寂れた散歩道だった。高校生は北陸学院の女学生が多かった。その制服は全国的にも知られた可愛いセーラー服だった。
写真手前から奥に向かって歩くと兼六公園下に出る。そういうふうに私たちが歩いていくと、向こうから女学生が三三五五来る。おっとりした金沢弁のお喋りをする女生徒たちはまぶしかった。
講義をさぼって、友達とこの道で議論ばかりしていた。金もなく地位もなく若さしかない男とは哀れなものだ。空しく人生とは何かいかに生きるべきかということばかり話をしていた。本当は恋人が欲しかったのだが――。
通路というほうがふさわしいような道だったが、この道はずっと永遠に続いている気がした。そして、この道を歩いていけば、きっと自分たちが夢想しているような美しい人生が待っているにちがいないと憧れのような妄想を抱いていた。
昨日、その白鳥路のそばを車で通過した。冷たい雨が降っていたせいか、金沢の町はさびしかった。遠い日に置いてきた憧れも町のどこにも見当たらなかった。
白秋の童謡「こぬか雨」というのがある。
こんこん小雨の
ねこやなぎ
こぬかの小雨がかかります。
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