初恋幻影
特番を作るために、「冬のソナタ」を見た人の手紙1万通余りを読んだことがある。
その中で、不思議に思ったことがある。
特に中年の女性(40、50代)からの手紙に多かったのだが、このドラマを見ると若い頃のことが懐かしい、高校時代を思い出して胸がキューンとなったと書いているのだ。その数は百や二百でない、三桁以上の女性が書いている。こんなに大勢の人が純愛を体験しているのだと感心しながら、一方腑に落ちなかった。
ある機会があって、何人かにインタビューした。「うらやましいですね、そんな体験をお持ちなんて」と尋ねると、「全然ありません」「そんなことはありませんでした」と答えるではないか。
体験したことなどないのに、「冬のソナタ」を見続けているといつしか自分が体験したような気になるらしいのだ。私はそれを「初恋幻影」と呼ぶことにした。この傾向は圧倒的に年長の女性に多い。
ある女性は自身を振り返って、こう分析している。
日本の女性は年々強くなり、仕事ではキャリアを求められ家庭では賢い妻、良い母を演じさせられてきた。気付かないうちに、胸の奥に哀しみやつらさをしまいこんで鎧(よろい)をきていた。誰からも褒められることもなく認められることもなかった。そんなときミニョンさんの笑顔を見ると肩の力が抜け、切ない場面で涙が滂沱と流れてくる。その涙は心の奥にたまっていたいろいろな想いを洗いながしてくれるのだ。…
昨年4月、ぺ・ヨンジュン氏が来日したときの騒動を、マスコミはいい年をして女子高生のような黄色い声をあげてとからかっていた。年がいもなくのぼせあがってと冷笑を浴びせていた。
彼女たちの心の背後に女性の置かれた苦しい立場を読み取った記事は皆無だった。
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