少年の日に
早春が近づくと思い出す詩がある。
小道がみえる
白い橋もみえる
みんな
思い出の風景だ
然し私がいない
私は何処へ行ったのだ?
そして私の愛は
矢沢宰という21歳で亡くなった“少年”が書いた最後の詩だ。彼は腎臓結核のため入退院をくりかえし、三度高校復学を願っていた春3月に逝ったのだ。最後に書いた詩であるらしい。
今朝のように、夜来の雪もあがって融けた日は大気が澄んでいて陽光がまぶしい。乾いた道がひときわ白く見える。矛盾した言い方になるが、そんな道は現実というより心の中に浮かぶ道のように思える。――矢沢少年も末期の中で見ていた道。
彼が亡くなったのは昭和41年。私が大学に入った年だ。その翌年、出たばかりの詩集「光る砂漠」をプレゼントされて読んだ。同世代のあまりに早い死にその彼が書いた美しい詩に惹かれた。
長くこの詩のことを忘れていた。定年をむかえて本を整理していて詩集を見つけ手に取り、そして思い出した。詩の美しさのみならず矢沢宰という人の美しい生き方にも心を奪われたことを。こんな生き方(死に方)をした日本人がいたということを若い人たちに伝えたい。番組にしたいと考えている。
人気blogランキング