太宰さん、教えてください
新宿のお多幸に行った。熱燗とちくわぶとスジと大根。これっきり。コップ酒をちびちび呑んで、一息ついて新宿の町に出て、目黒へ向かう。
連休の中日、会社に行ってもしようがないけど、家にいたってハカがいかない。当初はりきっていたほど読書に気乗りしないし、テレビも見る気がしない。
太田治子の新著の「石の花——林芙美子の真実」を読んだ。太田が生後3ヶ月のときに、林芙美子が小田原の太田の家に現れて、養女にしたいと告げたことから物語は始まる。まだ途中だから、どんなふうに展開するかは分からない。
この二人の出会いのとき、太宰治は他界していていない。父を失った赤子は、林に抱かれてすやすや眠っていた。
お多幸―太宰がときどき通った店。
そのカウンターに座って考える。私よりも30歳年少となった太宰に教えを乞いたい。どうやって生きたのですか。つんのめるようにして、慌ただしく去っていたのはなぜですか。どうやって、それを可能にしたのですか。
中年面をさげて、処世的なことを語っても、どこかで違うと声がする。
太宰のように、新宿からふらりと電車に乗って、山梨の山の中まで行ってみるか。月見草と富士が見えるところまで。途中に井伏さんが住んでいる荻窪があるだろう。そこを通過するとき、太宰はどう思っていたのだろう。
三鷹を通れば、そこに待っている家族があった。どうやって振り切って行ったのだろう。
お多幸の壁に値札が下がっている。しじみ汁とある。お酒の後にどうぞと書かれて、フェルトペンで「しじみ汁」とある。
しみじみ、と見えてくる。
隣の若者が店の親父を相手に憤慨している。人材派遣の会社なんてピンハネのし過ぎだ。元請けからもらっているのは日立てで1万はあるはずなのに、俺らのところへ来ると全然足らない額になっている。ひでえもんだ。たかが口入れ屋がさ、あんなにもうけていいのか。
良かない。(怒れ。若者よ、立ち上がれ。)と心の中でつぶやく。
こんなときに、中原中也は人の気持ちをよむようにして、喧嘩をふっかけたのだろうな。太宰もその餌食になった。それを見かねて檀一雄が中原に殴り掛かったはずだ。
あんたたちが生きていた時代がよかったなんて言わない。あんたたちにも言わせない。
でも、貧しい5月の黄金週間。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング