夜の雨、そして薔薇
午前4時。夜明けまでまだ遠い。雨が降っている。蕭々と降っている。
あの言葉を思い出した。「ああ遥か夜の薔薇」。こうでなかったかもしれない。「嗚呼遥かなり夜の薔薇」だったかもしれない。
が、私はこう記憶している。「ああ遥か夜の薔薇」。
金沢の中学校教師の家に、この言葉は書道家によって書かれた色紙となって貼られてあった。
たしか、八木重吉の詩の一節だと聞いた。
その現代書道の字が心に留ったのか。この一節は、40年も昔のことなのに、くっきりと残っている。
これを読んだとき、夜の、春先のまだ冷たい雨にうたれている薔薇を思った。
陰惨な光景のようだが、どこか華やかな、「希望」が添えられているとも感じた。
アスファルトを濡らす雨の音。切れ目のない雨の音。
午前4時23分となった。雨はやみそうもない。蕭々と降っている。
今年、社会人になった、あの二人はどうしたかな。3月に、わざわざ京都から出て来て就職の報告と別れを告げに来た、あの二人。
一人は関西の民放へ、もう一人は鹿児島の中学校へ、と巣立っていった。今頃、新人研修の真っ最中だろう。不器用な二人はきっと社会人のなかで齷齪していることだろう。きっと、疲れて、今頃は熟睡しているに違いない。大阪も鹿児島も雨だろうか。
たとえ、雨が降っていようと、二人はその音に耳を澄ませるどころか、疲れきって泥のように眠っていることだろう。
40年後、彼らも眠れない夜をむかえるだろう。そのときは、「ああ遥か夜の薔薇」の言葉を思うだろうか。
この雨で、東京も大磯も桜は終わるだろう。やがて、青葉若葉の季節となる。
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