さよならも言わないで別れたよ
「ノルウェーの森」ではないが、ぼくが乗った東京行きの飛行機はぐんぐん雨雲の中を駆け上がってゆく。ヘッドフォンから流れてくる機内放送は、ガロの「学生街の喫茶店」。そのなかのフレーズが「さよならも言わないで別れたよ」。
窓ガラスに上から下へ流れ続ける雨のしずくを見ながら、この言葉を繰り返しなぞる。声に出さないで。小松の町が小さくなり日本海が見えて、大きな中部山脈に向かって飛行機はぐんぐん迫ってゆく。僕は東京へ帰って行く。
・・・ぼくらの学生時代、学生運動が負け戦になりはじめた頃だったから混乱していた。昭和44年から45年の頃だ。安田講堂が落城し、よど号が赤軍によってハイジャックされた。研究室の中も対立していた。顔を付き合わせると互いの路線を主張する不毛な議論を続けていた。代々木支持のゼミ仲間とも敵対していたから、学生生活の終わりの頃はほとんど研究室員とも口をきいていない。何のけじめもつけないまま別れ別れになった。45年3月、卒業式にもぼくは出ていない。ぼくの両親は式に来てはみたものの息子は見当たらず、仕方なく息子の親友と記念写真を撮っている。
ぼくは金沢の町にアンビバレンツな思いがある。恋をした街であり恋を失った街だった。
だから、長くさまざまな思いを封印してきた。
昨夜、浅野川のさらさら流れる瀬音を聞いて、東山のシジマを見ているうちに、懐かしさがこみ上げてきた。初老のセンチだ。いいじゃないか。60になって、青春を顧みて沈んでいるなんて。
今回の旅は、「舞踏会の手帖」だ。でも予想に反して(内心分かっていたが)、たくさんの人が物故していた。まだ死ぬ歳でもないのにたくさんの知人仲間があの世へ旅立っていた。60を前の死だから自然死ではない。ある者は自死であり、ある者は植物状態のうえでの死であったりした。
センチな思いなんてすぐ消えた。空漠たる思いが3月末の空に舞い上がる。懐かしい思いが吹き飛ばされることになる。口惜しい。「さよならも言わないで別れたよ」
きちんと、さよならを言わないで別れたよ。ジローさん、イシカワさん。
東京に着いたら、東京も雨だった。しかも肌寒い雨だった。息を吐くと白い。寒さがぶり返したようだ。桜はこれで終わるのかな。
今回の体験を、今夜じっくり考えてみよう。
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