東風添えて
昨日はオール文楽の一日だった。
午後4時から総合テレビで「闘う三味線 人間国宝に挑む」が放送された。ハイビジョン、衛星第2と放送されてきたが、初めての地上波放送だ。連休中日の日曜夕方、願ってもない時間帯。これまで以上のおおぜいの人たちに見てもらうことができるのだ。放送開始から1時間20分まで見て、半蔵門の国立劇場へ向かう。残りまで見ていると文楽の東京公演に間に合わなくなるので、やむなく席を立つ。夕方6時から始まる公演に鶴澤清治さんが出演している。演目は「義経千本桜」。6時ちょうどに開演された。
文楽「義経千本桜」を初めて見て感動した。こんな面白い物語だとはつゆ知らず。
その物語とは——
これは源平合戦の後日譚である。悲劇の英雄義経の伝説だ。源義経が兄頼朝と対立し京都を追われた後の逃避行。大和国吉野まで落ちてゆく。昨夜、私が見たのは「伏見稲荷」と「道行初音旅」の段である。
主人公は義経だが、彼はたくさんの登場人物をつなぐ扇の要のような存在。源平合戦で滅びたはずの平知盛・平維盛・平教経、吉野の民そして義経の家臣佐藤忠信の偽者が次次に登場してくる。
法皇から下賜された「鼓」が物語を転がしてゆく。この鼓は狐の皮が張ってある。この狐の子供の子供が化けて出てくるのだ。それが偽忠信。偽はそういう存在だから変幻自在に飛び回る。まさにファンタジーだ。この忠信狐(たたのぶギツネ)という表現、ギツネとは義経(ギツネ)と掛けてあるなんて、卒倒するぐらい面白い。
「道行初音旅」で鶴澤清治さんが登場して、華麗な撥さばきを見せてくれた。この場面は吉野の桜を見晴るかす山上の物語。そこで偽忠信が静御前と華麗な道行きとなるのだ。その鮮やかなこと。
人形浄瑠璃の面白さをたっぷりと堪能した。
東風添えて吉野道行く狐かな
清治さんの公演が上がった時点で、私は楽屋口に回った。そして、渋谷のとある会場までお連れした。
この夜、「闘う三味線」の受賞パーティが開かれたのだ。パーティといっても、プロデューサーやディレクター、音声担当、音響効果担当ら内輪の会。総勢10人の集まりだ。
ATP賞ドキュメンタリー最優秀賞、総務大臣賞のダブル受賞に加えて、清治さんが人間国宝に選ばれたことのお祝いと、トリプルのお祝いをしたのだ。清治さんの奥様も参加していただいた。楽しい会となった。
取材の折の裏話や苦労話、席上、笑いが絶えなかった。
そして、夜10時半、会はお開きとなった。
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