草間弥生的生き方
昨日、珍しい人が訪れた。フリーディレクターで映画監督の松本貴子さんだ。新作の映画の招待チケットを持参してきてくれた。
映画の主題は世界的アーティストの草間弥生だ。今、話題になっている。昨日の朝日朝刊、文化欄でも大きく取り上げられていた。
松本さんとの付き合いはかれこれ8年前になるか。「世界わが心の旅」で山口小夜子さんを主人公にした番組を作ったときからだ。あの作品は私にも忘れられないもので、山口さんの妖しく不思議な美しさに引き込まれることになった、思い出のドキュメントだ。
そして、番組を制作した松本さんも不思議なディレクターだ。2年ほど前にETV特集で松本さんは草間弥生を取り上げたことがある。それを契機に、この映画を立ち上げたのだ。そのエネルギーに感心する。
かつて、澁澤龍彦の『幻想の回廊から』を愛読していた頃から、芸術家の”病んだ魂”が見事な芸術を作り上げるということは感じていた。ゴッホを始めとして実に多くの例がある。草間も幼い頃から統合失調症を病み、たえず幻覚や幻聴に襲われてきた。そこから逃れるためにその幻覚を逆に描いてきたという。作品を見れば瞭然。
空白を恐怖するごとくびっしりと埋め尽くされた水玉。しかもそれは増殖しつづける。ある作品は微生物を際限なく描き、それぞれに黒い縁取りつまり死の影を貼付けている。
草間弥生はまもなく80歳になろうとしているが、その創作のエネルギーは止まることを知らない。
その映画「草間弥生、大好き」の監督、松本さんと1時間ほど話し込んだ。私のほうから誘い込んだのだ。なにか、話し合っておかなくてはと思った。
まず、去年亡くなった山口小夜子さんのことについて、互いに意見を交換した。
そのあと、今年の正月以来、自分の身の回りでおこったエピソードをあれこれ、私は語った。彼女は遠くを見るような目で話を聞いていた。
聞き終わってから、彼女はある友人の話をした。広告代理店に勤める50代の男性が、草間弥生の映画の試写会を終えて語ったことだ。
「草間さんて、エネルギーが切れませんね、70を過ぎても。男は定年をむかえるあたりから、人生をまとめようとするけど、この人はというか女はというか、まとめることよりも広がり持続していくエネルギーがありますね」
松本さんは楽しいことを教えてくれた。
「これから、きっと楽しいことがはじまりますよ。だって、作らねばならないという企画で作品を作るのでなく、やりたい企画をやっていけるんですから。」「どうか、自分で撮って、映像を作ってみてください。」
おしまいに、松本さんはある女性の最後を教えてくれた。その人は、先に述べた「世界わが心の旅/山口小夜子・モロッコの旅」の編集者だ。
顔が思い出せないが、たしかに、あの番組の編集で苦労したとき、そこでがんばる女性がいたことは覚えている。
その人は数年前に死んだそうだ。肺癌と宣告されて1年間、松本さんはその人の近くにあって、その最期を見届けた。35歳で死んでいったのだが、実に毅然と晩年を生きましたと、松本さんは語った。
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