師走の福音
ちょっと嬉しいことがあった。
先日、受賞した「闘う三味線 人間国宝に挑む~文楽 一期一会の舞台」へのお褒めの手紙をいただいたのだ。送り主は作家の森まゆみさん。たしか、あの賞の審査員のお一人だったはずだ。番組の1ファンとして、受賞のお祝いを述べたいと森さんはその手紙に記している。
受賞から一定期間経った時期に、「ファンとして」手紙をしたためられたことに、深い配慮を思う。当座であれば、知り合いの誼で審査に臨んだと誤解もされよう。番組の試写、審議、推薦のすべての作業が終わったあとで、番組のファンとしての感想を述べて、祝福してくださったのだ。その感想は作者冥利に尽きるものであった。
作家活動とは別に、森さんは「谷根千」という東京のタウン誌を主宰している。東京の谷中、根津、千駄木、を舞台にした地域情報雑誌だ。雑誌『谷根千』は、全国各地で誕生した同種のリトル・マガジンのお手本となったといわれる。この3つの地域というのは山手線の内側にあって、あだ古い屋並が残っているのを、森さんたちが一つの「文化」として見ることを始めた”運動”でもあった。
森さんから届いた便りはペリーの通訳だった侍たちの絵葉書だった。その絵の端に、森さんは「笑っている武士というのがすごいと思いました」と書いてある。一瞬、何のことか分からなかったが、よく考えると武士というものはそういうものかと、はたと気づいた。
たしかに、江戸末期の古い写真に武士は写っているが、笑った顔はほとんどない。庶民はともかく武士というのはめったに笑わないものだという、故実が実感できる写真だったのだ。脈絡がないが、藤沢周平の世界を思い起こした。森さんの豊かな感受性に驚いた。
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