〈検屍官シリーズ〉スカーペッタ
実は、ミステリーやホラーが大好き。松本清張や水上勉は若い頃没頭した。その後江戸川乱歩賞は出来るだけ逃さず読んだ。『暗黒告知』や初期の井沢元彦なんかは好きだ。でも外国ものは文体が馴染めなくてなかなか読まなかった。昨年の暮れ、職場の同僚がこれおもしろいよと貸してくれたのが『コーノトリ殺人事件』。それから『報復』など赤毛物にいっきにはしった。
物語の設定はうだつの上がらない探偵や弁護士というのが好きだ。権力をもっている奴にいやというほど最初いじめられるのだが、最後で逆転というパターンがお気に入り。これって昔はまったプロレスのスタイルだ。余談だが、研修の講師などで行くと、私は番組の作り方をプロレス団体の分類で示したりするほどプロレスが好きだった。でも1昨年オーエンハートの暴露ドキュメンタリーを見て一気に熱がさめた。格闘技も最初はよかったが、最近のプライドなんかはリアリティが薄い。以前ほど力が入らない。
閑話休題、外国ものにはまって読みすすむうちに、パトリシア・コーンウェルの〈検屍官シリーズ〉に出会い、これに心を奪われた。このはまり方は昨年の「冬のソナタ」に似ている。1作読むと次にいきたくなるのだ。読み終えるうちは、他の本が読めない。たいてい私は2,3冊並行して読書するのだが、このシリーズだけはそういうわけにはいかないのだ。このシリーズは1990年代全米で最大のミステリーになったというがたしかにその面白さが無類だ。
作者のパトリシア・コーンウェルは実際に検屍官を体験しているので、医学知識、警察組織の詳細が半端でない。死体からのプロファイリングは今までなかった手法で読ませてくれる。犯罪もカルト教団や殺人狂など中途半端ではない凶暴で犯人も悪辣だ。物語は起伏があってぐいぐい引っ張る。
でも一番のお気に入りは登場人物の人間関係だ。検屍官スカーペッタはイタリア系の美しいエリート女性。FBI捜査官の恋人がいる。不倫の関係だ。現場のさえない警部マリーノも横にいて、スカーペッタに邪険にしながら意識している。女子のエリートということで男社会のいろいろな意地悪にあう。それをぶち破って行くときの爽快感が最高。もう独り重要な人物がいる。姪のルーシーだ。天才だが母性に恵まれずスカーペッタを母のように慕う。最初少女だった姪はシリーズがすすむにつれ、美しい若い女になっていく。でも彼女は男に興味をもたない。女の恋人がいる。これらのレギュラー人物が、さまざまな事件に遭遇し解決していくのだ。
この人間関係の面白さは、藤沢周平の『用心棒日月抄』に似ている。
スカーペッタとマリーノのやりとりなど、翻訳ものとは思えないほど、洒脱でいい。翻訳の相原真理子は相当の人だと、私は思う。
これは、デミ・ムーアの主演で映画化もされたというが、評判をとっていない。多分シナリオ化するのが難しいのだろうが、うまい映像で見てみたいものだ。せめてジェシカ・ラングの「ミュージックボックス」程度のあがりで見ることができないかなあ。ハリウッドの監督でユン・ソクホぐらいの感覚をもった人がでてこないかなあと夢想する。
ちなみに戦後評判をとったフランス映画のジャンル、フィルムノワール(犯罪映画)もメロドラマの一種として欧米では見られる。メロドラマというコンセプトはなかなか広いのだ。
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