後期の仕事だって、大変だあ
大江さんの新作『臈たしアナベル・リイ総毛立ちつつ身まかりつ』を読み始める。後ろの扉を見ると、初出は今年の6月から10月号にかけて「新潮」に連載されたとある。11月に早くも単行本として出版されたのだから、いかに新潮社が力を入れているかがうかがえる。
長い間、大江さんは新潮に書くことがなかった。おそらく10年近い時間が流れているだろう。かつて、坂本忠雄という優秀な編集者がいた頃は信頼して執筆していたのだが、彼の退職や新潮社のあり方に疑問を抱いて、大江さんは寄稿を中止していたのだが、ようやくその束縛が解けたようだ。個人的には嬉しい。文藝専門の出版社を舞台に活動するということは文学活動の活性をさせるものだから。
序章と第1章を読んだだけだから早合点かもしれないが、ここ5、6年書いてきた主題から少し離れたものが起き上がってきている気がする。帯にはチャイルド・ポルノグラフィと農民蜂起という言葉が躍動している。農民蜂起は『万延元年のフットボール』を思い浮かべさせるが、チャイルドPとはいったい何だろう。そういえば表紙には「ロリータ」風の少女の裸像がある。もしかして、『同時代ゲーム』のときのようなグロテスクリアリズムが蘇ってきているのだろうか――。
先日、朝日新聞に沖縄ノートをめぐる裁判について書かれたエッセーを読んだとき少し心配した。文章が衰弱している気がしたのだ。大江さんは疲れたのか老いたのか、それとも絶望しているのだろうか、大江さんの憂鬱な顔を思い浮かべた。
本書には、少女というエロスが侵入して物語を撹乱するのではないだろうか。であれば、久しぶりに大江文学をPとしても読むことができる。これが楽しみなのだ。この10年、大江さんは死者のことばかり言及してきた。が、元来大江さんの資質はヴァイタルなことだと私は思う。ひょっとすると、大江機関車は70代をノンストップで疾駆するつもりなのだろうか。期待が高まる。
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