夢見る力
ポップカルチャーの変遷を記した本『日本のポップカルチャー・世界を変えるコンテンツの実像』(日本経済新聞社)を昨夜読んで、目から鱗が落ちる思いであった。
ポップカルチャーというのは20世紀になって登場したものだと、その本は指摘している。そしてこの百年の間に3つの波があったという。
第1の波はアメリカで黒人を中心とする移民が作りあげた。ジャズとハリウッドの映画の中から生まれた文化だ。ここで、ポピュラーミュージック(大衆音楽)からポップという言葉が発生する。このポップカルチャーの背景にはラジオ、レコード、映画の発明がある。
第2の波は40年ほど経ってアメリカ、イギリスで起こる。1960年代から10年の間だ。中心になったのは若者たちだ。若者の反乱とでもいうべきか。覇権となったアメリカンポップスに反逆するものとして、戦後生まれの若者たちによるロック文化が生まれた。テレビ、レコードというマスメディアの発達を背景にエレキギターとファッションが主要なアイテムとなる。
第3の波は日本の団塊ジュニア、オタクたちが担う。インターネット、DVD,ケータイ、デジタル技術を背景に、マンガ、アニメ、ゲーム、フィギュアなどオタク文化が生まれた。
このJポップカルチャーは今世界を席捲している。世界の漫画とアニメの市場規模は10兆3000億円になっている。そのうち世界のテレビアニメの60パーセントが日本製であり、同じくマンガ、ゲームなどの大半を日本発のソフトが占めるにいたっている。
単に日本のポップが流通しているということでない。日本のポップの世界観が世界のファンに指示され、マニアックな消費、コミケ的市場を拡大させている。
その世界観とは――
《現実からの逃避というオタク的な反抗、現実ではなく仮想の価値を求めるマニア的消費行動、作り手と受け手が可逆的に入れ替わるコミケ的な流通、それらのありかたは、国際資本に支配された世界の大衆が現実社会を生き抜くための最も「ポップ」なスタイルだからこそ、日本のマンガやアニメ、ゲームに人気が集まるのではないだろうか。》
1989年、冷戦が終結したとき、これで核戦争の悪夢から人類は解放され新しい希望が生まれたと思っていた。ところがテロルが跋扈し世界を渡り歩く巨大な資本が、われわれの隅々にまで入り込み、便利(コンビニエント)のように見えて実は不自由な状況が生まれてきた。地方の駅前にあった商店街はシャッターを閉ざし、風景は変わった。おまけに日本はバブルが弾け、関西で大地震まで起きた。失われた10年のあいだに中国をはじめアジアの諸国は勃興し、相対的に日本の位置も滑り落ちた。環境問題も楽観できない様相を呈してきた。息苦しい。こういうものから「逃避」し、現実を生き延びるための武器として日本のポップカルチャーが発生したのではないかと、前述の著書は説いていた。つまり、夢見る力を日本のポップカルチャーは育て上げたのだ。
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