動く居酒屋にて
今夜は新宿7時30分ジャストに出発する湘南ライナーで大磯へ帰る。
9号車、27番ABCDの席を陣取る。タケ先生にきつい鍼を打ってもらっての帰途だ。このところのロケでかなり体が壊れていると思ったが、先生は私の健康状態に及第点をくれた。これも5年間鍼を打ってきた結果じゃないかと、先生はしみじみ言う。私も粛然とする。
――治療院を出て新宿駅に向かう。ライナーに乗る前に私は準備をする。
まず靖国通り沿いの「ケンタッキー」へ行き、3ピースとコールスローを購入。次に、新南口のコンビニで缶ビールと白角水割を買って電車に乗り込むのだ。
席についてやおらフードを取り出し、ビールの封を切って飲み始める。うまい。特に今夜は夕立があった後むしむししていたのでつめたいビールが喉に心地よい。そして鍼の後の酒は特にうまい。
電車は早や新宿を離れたり。動き出してまず渋谷に着く。ここを出ると、藤沢までノンストップだ。どこにも止まらず、誰も乗り降りしない、邪魔しない。至福の1時間だ。
チキンの2ピースめを食べ、ビールを飲み干して水割りをやり始める頃電車は西大井あたりを通過。だんだん町の灯りがなくなり、暗闇が増える。ところどころの踏み切りにはオレンジ色の灯だまりがあるのが懐かしい。そろそろ酩酊が始まる。電車がレールを離れて宙に浮きあがってゆく感じがする。
ぽつんと水銀灯が見えたかと思うと、後ろへ飛びすさる。車両はぐんぐんスピードを上げる。おお、向こうに見えるはケンタウルスかはたまた蠍座か。
まさに銀河鉄道だ。宮沢賢治の世界というと言いすぎなら、松本零士の「銀河鉄道999」の世界と言っておく。そこに私は没入してゆく。
酒を飲んでいて、このまま汽車の車窓になったらいいなと思うことを昔よく考えた。その望んだ世界が湘南ライナーの今体験している世界になっている。酒を飲みながら、夜の世界に目を凝らすとそこにはイリュージョンが次々とやってくる。我が「動く居酒屋」よ。
リラックスした精神で、近況を振りかえると、一昨日の9月2日は河合隼雄さんのお別れの会があったことを思い出す。私は残念ながらロケが入っていたので行けなかった。私の仲間も家庭の事情で不可だった。ただ一人行った同僚に話しを聞くと、盛大だったとか。それはそれでいいのだが、河合さんとお別れするのは儀式でなく何か番組を通してかなと思う。
先生、もし死後の世界に行ったのなら、何か「徴(しるし)」を後に残った私たちに分かるような信号を送ってくださいよ。待っています。
ぼくの乗った銀河鉄道は夢とも現(うつつ)とも言えない夢幻境を今、走っているらしい。
これを傍目から見ると、酔っ払いという。
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