人酔いの中で
噂以上の勢いだった。りんかい線の東京国際会展示場前駅に着くとホームから人が溢れていた。地上に出てコミックマーケットの会場を目指したがものすごい人の波だった。
コスプレもあるということで奇天烈な格好をした男女が処々散策しているが、秋葉原のようなじとりとした感じがない。猛暑ということもあるかもしれないが、会場に向かう若い男たちは意外にこざっぱりとして楽しそうな表情でいる。
とにかく人が多い。昨日はコミケ最終日ということで少し減ったようだがそれでも15万近い人がこの一区画に集まっている。後楽園の3倍ほどのスペースに一つの街分の人が入っている。普通ならば混乱になるだろうが、整然と流れている。みなマナーがいい。
東京ビッグサイトは広大な空間で、ここを埋める展示というのはめったにない。だがコミックマーケットは東館6ホール、西館2ホールがすべてサークルの店で埋め尽くされている。同人誌を売る側も買う側もここでは参加者と呼ばれる。参加者のほとんどが若い男の子だ。女子は10パーセントぐらいかな。私のような中年も幼い子供もいない。これほど若者が集まっているにもかかわらず、清潔で殺伐としたものがない会場はなぜか違和を感じてしまう。祭がもつ猥雑感が乏しいのだ。おそらく会場を運営している側が相当シビアにあたっているのだろう。ないしは、参加者がみな紳士淑女なのかもしれない。
コミックマーケット72というのが正式名称で、主催の発表によると、1日目の参加が11800サークル、2日目11800サークル、3日目11400サークルとなっている。この小さな机に並べられた同人誌はプロと見まがうほどレベルが高い。高い技術を駆使したマンガ、イラストがカラフルに展示され即売される。私もSF関連の同人誌を10冊ほど買ったが領収書が発行されないというのが納得できない。一冊がだいたい百円と安価だがなかには3千円、四千円という豪華本もある。
3人でカメラをかついで会場を歩き回ったが、途中で私は迷子になった。
1区画に4辺に100ほどの店があり、その区画がずらりと10個ほど並ぶ。さらにとなりの島がある。少し一人で歩いた。スタッフの場所から20メートルほど離れたが、たちまち迷子になった。自分が何処にいるのか、何処から来たのか、まるで見当がつかない。同じような顔立ちの若者、同じような服装の若者がずらりといる。不思議なくらい個性がないから見分けがつかない。だいたい方向感覚はいいほうで初めての外国の町でも迷ったことがない。なのにわずか100メートル四方の空間で迷ったのだ。何もたず携帯も財布も本隊の荷物といっしょに置いてきたから身動きとれない。喉が渇いて暑さでアタマがくらくらするが、飲料水を買うこともできない。だんだん、ぼーっとしてきた。30分くらい否40分くらい走り回った。
やっとスタッフの顔を見たときは助かったと安堵した。こんな不安は久しぶりだ。ヒトがたくさんいるのにその人と交流できない、影の国へ行ったチュンサン状態だった。
おたくという草食動物がすむコミックマーケットという王国。ここに迷いこんだ私。そこには、目くるめくような時間が渦巻いていた。
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