小松左京さん
朝7時にこれをうっている。今やっておかないと今日はおそらく時間がない。
進行中の「21世紀を夢見た日々」のロケがいよいよ本日から始まる。といってもそのロケには参加しない。もう一人のディレクターOK君の登板なのだ。女優の栗山千明さんと秋葉原のルポを一日がかりで撮影することになっている。
私は社に残って明日のスタジオ本番の準備に追われる。明日の昼から109スタジオで4人の作家をむかえて話をうかがうのだ。その台本作成と小道具の調達が今日の大きな仕事だ。
昨日、河合隼雄先生死去のニュースに愕然としたまま、夕刻小松左京さんの打ち合わせに行った。普段は大阪在住だが月に数度上京し仕事をこなしている。その事務所にうかがった。たしか小松さんは河合さんより3つほど年少になるはずだ。足腰は衰えたとはいえ元気だ。とにかく喫煙がすごい。チェーンスモーカーだ。6時を回っていたので、君らも飲めよとビールを勧められた。
記憶――戦前の、幼少時代の記憶はすごい。実に微細な部分までしっかり把握していた。ところが日本SF作家クラブの幼年期(1960年代)あたりになるとやや曖昧になるらしい。「それは半分覚えとらんなあ」とビールをごくり。
原子爆弾の話題になった。広島に新型爆弾が落ちたとき名古屋大学に行っていた兄が原子爆弾だと教えてくれて、ぼくは中学生だったがその存在は知っていたよと回顧する小松さん。そのあとウラニウム爆弾のメカニズムをきちんと説明した。北朝鮮が実験を行ったというが1.5キロの爆発では核爆発ではないと思うと理路整然と説明する。驚いた。
こんなに科学に強いのでしたら学者になれましたねと話をいれると、「いや、ぼくはアナウンサーになりたかったのだよ」と胸を張って答える。小学生のころ、大阪NHK(通称BK)で子供放送局という番組のキャスターをやって以来ずっと思っているよと、一瞬子供の顔になった。
SFの昔の作品のタイトルはなかなか乙なものがある。10月はたそがれの国、ひとたびの幻、夏への扉、七瀬ふたたび、果てしなき流れの果てに、幼年期の終わり等など。中で私が好きなものは1972年ボブ・ショウ作『去りにし日々、今ひとたびの幻』だ。これの原題は「Other Days、Other Eyes」。なんという翻案。しかもこのSFのストーリーは乾いたものだから余計にこのタイトルが際立つ。
ビールのグラスを片手にタバコをくゆらす小松さん。悠々と去りにし日々を思っている。
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