バガボンの未来論
1969年に録音された座談会テープを聴いている。そこで語られていることがあまりにおかしいのでそっと誰かにこの話をしたくなった。このテープは大伴昌司の遺品にあったものだ。少年誌の巻末座談会に使われた記事のための録音と思われる。出席している人物は、どうやら小松左京、星新一、平井和正で司会が大伴のようだ。テープのラベルは「未来はきみたちのもの」と記されてあるから、50年後の21世紀になったとき世界はどうなっているかということを、SF作家たちが集まって放談したと思われる。休日の寝坊している布団の中で録音を一人で聞いて笑い転げる。
内容はもちろん放談ではなくきちんとした裏づけのある未来論だが、話をしている作家たちのくだらないジョークに「放談」だといいたくなる。噂に聞いていた、星新一のジョークというのがすさまじい。奇妙奇天烈、奇想天外、奇抜奇警、とにかくこんなくだらないことをよく思いつくなあと呆れてしまう。
今年出版された、最相葉月の『星新一』は星の不思議な生き方を活写して今年のノンフィクションの収穫の一つと呼び声高い。そこでも星の珍無類のブラックジョークがふんだんに出て来るのだが、今回その星の肉声でそのきわどいジョークを聞いていて何度もウヒャヒャと腹をかかえた。そのさわりをちらっと紹介しよう。
話題は21世紀中ほどになったとき世界はどうなっているかという未来の予測だ。海洋海底から娯楽、教育、育児まで多岐にわたる。
世界ハイウェーが出来て、日本から南極まで道路がつながるだろうと博識の小松がまず口火を切る。日本列島にはあちこちに橋が架かると4人の作家は予測する。実際に本四大橋が出来たり東京湾アクアラインが出来ているから、彼らの推測したことはかなり理にかなっていたわけだが、この東京湾に橋を架けるというところで、星が半畳を入れるのだ。橋を建てるために海の水を掻い出すことになる。すると、東京湾の海底にごろごろと白骨死体が見つかるという。「これで迷宮入りした事件は解決だな」と一人ごちた後の言葉。「さらに発見されるのが膨大なコンドームの山」
宇宙旅行の話だ。理論的には宇宙服さえ着ておけば火星まで歩いて3年で往復できるという。それじゃ、ヨットでも作ってそれで往復すれば「宇宙ひとりぼっち」だなと堀江謙一の太平洋横断にかけて話すところまでは、星も真面目だ。
でも3年間も宇宙服を着ていて背中がかゆくなったらどうするのだと星が言い始めると、SF作家たちは悪乗りを始める。「宇宙服の中に自動孫の手を作ればいいさ」と平井がまぜっかえす。あまりのくだらなさに開いた口がふさがらない。大の大人が「仕事」をしているとは思えない。
海の生物の全重量の20パーセントはプランクトンで、プランクトンが異常増殖するということを小松が発言すると、話がまた星によって横へそれる。「プランクトンを養殖できるなら酵母菌を養殖したらどうだ」他のメンバー「?」と訝る。「だって、そうなりゃ、海全部が酒になるぜ。養老の海だ。」海風が吹くだけで人々は酔っ払ったりしてと、星の妄想は際限なく続く。
座談の途中で小松が呆れて「ここでの未来論はバカボンだな」平井もけらけら笑っている。一人司会ということで真面目なのが大伴昌司であった。
ここでお昼になり、会社へ行く用意をしてテレビをつけたら、新潟地方で震度6の大きな地震があったと報じている。
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