鎌腹の刃
文楽に耳を傾ける。あの竹本住大夫の名演だ。題して、「義士銘々伝・弥作鎌腹の段」。赤穂浪士の物語外伝。なにげなく聴いていたが、物語が進むにつれてここで語られていることはけっして昔のことではないのじゃないのかと思い始めた。
物語――
攝津の国、萱野村に住む百姓弥作の元へ、浅野家に勤めていた弟和助が帰ってくる。主君の刃傷でお家は取り潰しになり、浪人となって帰ってきたのだ。
それを見ていた村役人の七大夫(悪役)が、和助を代官の養子にならないかと話をもちこんでくる。七大夫はごまをすって代官に取り入る魂胆だ。これが悲劇の始まりだった。
和助は兄に養子の話を断ってくれと頼む。理由を聞いても弟は口を割らない。いよいよ尋ねると、吉良邸討ち入りという一大事であった。和助は弟の忠義に打たれ、快く江戸に送リ出すことにした。
数日後―、和助は兄弥作の家を訪ね、念願かなっていよいよ討ち入りが決まったと報告にくる。ところが悪い事態が起きていた。例の村役人の七太夫は代官に口利きをしてすでに結納金を懐に入れていたのだ。しかもちょろまかして私腹をこやしていた。七大夫としては話が壊れては一大事だ。そこで七大夫は兄弥作を脅す。破談になれば武士の義理がたたないから自分は腹を切るが、それでもわしの言うことをきかんのかと脅すのだ。もしそれでも断るなら理由を言えと七大夫は迫る。そして、ついに弥作は討ち入りのことを白状してしまう。それを聞いた七大夫、縁談が駄目なら密告で点を稼ごうと代官所へ走るのであった。それに気づいた弥作は追いかけて、ついに鉄砲で七大夫を撃ち殺すことになる。
役人を殺したからには弥作は生きてはいられない。
腰の脇差で腹を切ろうとするがなかなかうまくいかない。そこで傍らにあった鎌を使って詰め腹を切るのだ。この正直者というか愚直者というか弥作のような人物は、今もいる。
緑資源機構の逮捕された元理事は、ノンキャリアではないか。彼が背任汚職し守ろうとしたのは林野庁からの天下りキャリアーだった。実際に逮捕されたのは元理事だったが、彼は詰め腹を切らされたのじゃないのか、弥作のように。
と思っていたら、もっと上層にあった人物が本当に刃を向けた。本日のニュースはその話題で一色となった。鎌腹を切るという没義道はけっしてなくなったわけじゃない。
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