自画像を描けない
昭和が終わろうとする頃だった。日本は景気がよかったので、海外取材の番組がたくさん作られた。当時ディレクターだった私も年に数回外国へ行くことがあった。円の価値が高まっているので旅が楽だった。ロンドンやパリですら経済的には困るようなことはなかった。ちょうど日本からの買い物ツアーがやってきてパリのブランド店で買いあさっているというやっかみのような噂がパリッ子の間で流れていた時代だ。
ロンドンで奇妙な話を聞かされた。日本が核武装を計画しているというのだ。話してくれたのはBBCのベテランディレクターだ。知性的で思慮深い彼が何てバカなことを言うのだと私はあきれた。被爆国でかつ経済的に繁栄を続けている日本が、そんな“無駄”なことはしませんよと一笑に私は付したのだが、彼はなかなか認めようとはしない。「経済大国になっているからこそ、日本は自分の地位を保持するため、かつ力を誇示するため核武装したがっているのです。これはヨーロッパ人はたいてい思うし、アジアの人たちもずいぶん懸念していますよ。」と真顔で忠告された。
私は国内で自分の国の画像を描いているのとは違う画像があるということを、そのとき知った。自画像と他者が見ている画像が違うことがあるのだと。
今、この画像のずれが起きているのではないか。『戦争責任と追悼』(朝日新聞取材班)を読んで思う。小泉前首相がかたくなに靖国参拝を続けて日中関係が極端に悪化した。安倍首相になって中国へ行きやや好転したと思われた。だが「従軍慰安婦」の規定をめぐって国会で高姿勢で臨んだことが内外で批判を受けた。そこでアメリカへ行ったとき議会に対しては河野談話を守るということを明言して、理解を求める、というようなことがあった。
ところが国内へ帰って来ると、靖国神社の例大祭に真榊を送り、今夏の参拝もふくみを残すような発言となっている。
これって、日本の立ち位置が外から見てかなりあいまいになっていないか。前掲書のなかでライシャワー東アジア研究所のケント・ガルダ―所長がこう言っている。
「靖国参拝は政治問題化してはいけないと思う。中国がこの問題で指図するのはおかしい。しかし、残念なことに、現実には首相が参拝を続けるかぎり、政治争点であり続けるのです。」
ここにこだわっていると日本が不利な状況になるとガルダ―氏は警告するのだ。日本が負ける可能性のある歴史問題を持ち出すべきではないというのだ。
日本の戦死者、犠牲者のことを思うと、「哀悼」という思いが湧いてくることは否定しないが、それを国際間にもちだすことがどんなふうに「外」から見られているかをリアルに考えなくてはならないのではないか。
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