幸田文の世界
1960年製作の、市川崑監督の名作の一つといわれている映画「おとうと」を見た。見終って、巷間の噂通りの佳作だったと、“安堵”した。
この作品は元来幸田文の原作を水木洋子が脚色したものである。この脚本もすばらしいが原作がいい。「おとうと」は幸田文の半自伝的小説なのだ。
父幸田露伴がモデルと思われる大作家(森雅之)と、継母(田中絹代)、げん(岸恵子)そして弟の碧郎(川口浩)が主な登場人物である。
気の強いしっかり娘のげんは、文豪の父とリュウマチを病みキリスト教に救いを求める継母と、反抗ばかりしている弟と暮らしていた。継母との折り合いがよくないのか、父の気を引こうとするのか、弟は親を困らすようなことばかりしでかしている。姉のげんが病気がちの母に代わって、その尻拭いをしている。つまり、弟の反抗を一人で全身で受け止めている。
そのおとうとが結核に罹ってしまう。当時、結核は死の病であった。姉は一人転地療養にも付き添って必死の看病をする。が、その甲斐むなしく弟はついに死ぬ。今わの際でそれまでバラバラだった家族が和解するのだ。
主人公げんを演じる岸恵子が実に魅力的だ。戦後民主主義の申し子のような軽やかな女性の演技を見せてくれる。この人が、なぜ今、都知事の要請で特攻映画のヒロインなどを演じるのだろうか、とつい愚痴を言いたくなるほど、この「おとうと」での演技は素晴らしい。ただ、実年齢が主人公の年とかなりずれていること、化粧が女盛りになっていることが、憾みではあるが――。
森雅之、田中絹代の演技はいぶし銀だ。この配役が映画の成否を握っていたと見た。弟の川口は演技が下手だが存在がいい。16年後リメイクされたとき、この役を郷ひろみが勤めるが格段に川口のほうがいい。
この映画の撮影は巨匠、宮川一夫が担当していて、「銀残し」という伝説的な色彩処理の技術を見せてくれている。
この休みに、幸田文原作の映画を二本見るつもりでいる。明日は「流れる」だ。この映画の監督は成瀬巳喜男だ。両方見たところで、このブログをしっかり書こう。
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