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星新一の評伝を読んで
3月末に出版されたばかりの『星新一・1001話を作った人』(最相葉月、新潮社)を読んだ。本文だけで560ページもある分厚いノンフィクションだ。このところ多忙が続いている私だがこの本を手放さず、その合間を縫って4日で読了した。面白かったのだ。 SF小説の草分け的存在、ショートショートの名手として知られる星だが、実は私はほとんど読んだことがない。弟が高校時代『ぼっこちゃん』を読んでいて書架に入れていたから、本を手にとったことはあったが、ぱらぱらとページを繰って終わっている。おそらく、漢字の少ない蒸留水のような文章に飽き足らなかったのだろう。食わず嫌いである。 それでも、この評伝を読もうと思ったのは、星は大伴昌司の数少ない友人だったからだ。大伴が突然急死して、愛宕署に変死体として収容されたときも、マガジン編集長内田勝、小松左京とともに星は駆けつけている。気難しい大伴が心を許した数少ない友人だったのだ。 星は戦前名をはせた星製薬の御曹司であることは知っているが、倒産の憂き目に社長として立会い逃げるようにして文筆の道に入ったことは、この本で初めて知った。この星の前史に著者の最相葉月はかなりのページを割いている。どうやら、SFの天皇、殿様と渾名された星の文士らしからぬ性格や行動の源をそこに求めているらしい。 父は星一、後藤新平や伊藤博文に可愛がられ星コンツェルンの総帥となった男。母は森鴎外の妹喜美子の娘、という華やかな家系に生まれた星はさぞかし幸運な男と傍からは思われそうだが、実際は父の会社の倒産という苦難を生きざるをえない境遇にあった。この入り組んだ運命が、星の晩年に深い影を落としていくさまを、この著は検証している。 別に、ブログで書評を書くつもりはないが、ある程度星新一のプロフィールを紹介しようと思って縷縷書いた。 さて、この本で興味をもったのは星の作話法だ。彼の得意なショートショートを作る法とは「要素分解共鳴結合」であった。異質な要素に分解して、さらにそれらが響きあって展開してゆくという方法をとれば、いいショートショートが書ける、何も神秘的な作話ではないと星が考えていたことだ。この星に私は共感する。テレビの番組も一定のセオリーにのっとれば誰でも出来ると私は考えている。けっして一部の者に与えられた特権的作業ではないと思い、私自身『テレビ制作入門』という新書を書いたことがあるから。 さらに面白かったのは文章世界の流儀だ。原稿用紙21枚あれば一つの物語が書けるというのが活字の世界の常識らしい。というか、人が筋書きを追うのに耐えられる分量が21枚というのを聞いて、おもわずにやりとした。 テレビの世界でも15分あれば一つのストーリーを描くことができる。この15分を単位にして30分、45分、60分、75分のそれぞれの番組が成立しているのだから。 などと、この『星新一』を読みながら、私は表現ということをずっと考えつづけていた。 さあ、本日は赤坂のスタジオで「植木等さんをしのんで」のロケだ。司会の国井雅比古アナに渡す台本を最終チェックしなくてはいけない。その作業にかかるが、日曜日の番組がオンエア―されたら、ゆっくりこの『星新一』を読みなおして、SF作家クラブの交友についてテイクノートしようと思っている。 来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
by yamato-y
| 2007-04-05 10:22
| 登羊亭日乗
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Comments(2)
Commented
by
monsieur-meuniere at 2007-04-05 10:52
お久しぶりです。その本、本屋で立ち読みして気になっておりました。小学校の頃はよく読みました。星さんは、ショートショートというジャンルの作品を書いたという仕事が有名ですが、しかし、それとは別の重要な役割の一つに、まだ弱冠高校生だった新井素子という人をSFの新人賞に選んだことも挙げられると思います。
選者は皆反対した中で、星さんだけが新井さんを推したのですが、結果、その新井さんの編み出した奇想天外な文体が、ライトノベルというジャンルに深い影響を与えていくことになり、それが今のオタク文化の荒唐無稽な「文体」を決定的に方向付けたといわれています。要するに、自然主義文学ではなく、マンガ、アニメのような小説の誕生です。今のオタク文化をさかのぼると、当時のSF作家たち、大伴さんや、星さんまでさかのぼることが出来るのではないか?と僕は思っています。
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Commented
at 2007-04-07 22:23
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