春のおとづれ
麓のソレイヤードで飲んで、今家に帰ってきた。ほろ酔い加減だ。
いつもは恐くて夜は歩けないツヴァイク道を放歌放吟して登ってきた。ああ気持ちがいい。八海山が体をめぐって気持ちがいい。シラスの釜揚げしたものと葉っぱ(何と言う名前か知らない)を和えたサラダがとても美味だった。もう一品は太刀魚の揚げたものだった。
晩飯代わりに町の飲み屋(と言っても大磯ではここぐらいしかない。後は値段の高い店ばかりだ)で熱燗をひっかけながら、星新一の伝記を読んだ。
今夜、放送だが、大磯の私には本放送は見られない。地方のみなさんに楽しんでもらうだけだ。その意味で先週の「あしたのジョー」のような緊張感がない。むしろ、一仕事終わった安堵感のほうが大きい。
大磯という町は不思議な町だ。12年間住んだというのに、友達もいなければ馴染みの店もできない。でも、そのほうがサバサバしていて気楽だ。今夜も手酌で飲んでしたたか酩酊した。お勘定をして店の外に出ると、いい具合におぼろ月夜。
狐が出そうなツヴァイク道を、小柳ルミ子の「春のおとづれ」を歌って帰る。
♪春のなぎさを二人で行くわ 砂に足跡残しながら・・・
この歌はボーイフレンドを父に会わせるために連れてゆく女の子の心境を歌っている。
ちょっぴり異国にいる娘のことを思った。もし、あいつが男を連れて来たら、俺は意地でも絶対に反対しないぞ、と。当人が好きだと思ったらそれを絶対的に俺は支持するのだ。それが出来なかったら、俺の今までの人生は崩れてしまうから。なーんてことを、酔いにまかせて心の中で毒づいてみたりして・・・。愉快、爽快、酒は限界。
山道を上がりきって、立ち止まると、私の長い影法師があった。振り仰ぐと大きな朧月。
映った影はトートバッグを右手にビニール傘を左手に持って立つ中年男だった。比較にならないことは知ったうえであえて言うと、荷風大人みたいだった。なんだか無性に可笑しかった。
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