悪役はいじめっ子じゃない
久しぶりに『紙のプロレス』を読んだ。ショーと言われるプロレスをガチンコで批評する雑誌だ。これって形容矛盾だ。
一時、プロレス特に新日本プロレスに入れ込んだことがある。毎週、「ゴング」か「週プロ」を買っていた。帰宅の電車で読むのは東京スポーツだった。スタイルは新日が好きだったがレスラーは全日出身の天龍源一郎が好きだった。土曜日深夜のプロレス中継番組はかならず見た。見られないときはビデオにとって見た。見ていると、家人が私を笑った。レスラーといっしょに体が動いているというのだ。ボディスラムのときは体がゆれて傾くのだ。首から肩にかけてこわばっているのが自分でも分かった。アメリカに取材に行くと、仕事があがった後の夜はホテルで必ずプロレス番組を探して見ていた。このプロレス熱を職場でも発揮した。
春になると、研修の講師として研修所に行く機会があった。全国の若手のディレクターたちが集まり、番組の作り方について考える場だ。そこでも、私はドキュメンタリーの手法を説明するのに、このやり方は「新日スタイル」で、ガチンコ勝負で作っているなどと、プロレスに興味のない人にはまったく分からない説明をほざいていた。そのプロレス熱が4年前ぷつっと切れた。冷めた。プロレスはリアルファイトではないという事実をしっかり目撃したことがあったからだ。それまでも、ショー的要素は知ってはいたが、まさかここまでするわけはないだろうと考えていた、その範囲を逸脱していたのだ。職場のプロレス愛好者はそんなことで愛情を失くすなんて素朴すぎますよと、非難をするのだが。
まあ、そんなことはいい。今日久しぶりに手にした雑誌の特集は、昨年末に行われた桜庭VS秋山戦の顛末だった。名選手桜庭が新星秋山に敗れたのだが、あのとき秋山は体にたっぷりオイルを塗っていて反則していたため、秋山は無期限出場停止の処分をくらったということを取り上げていた。この試合を私は見ていたが、桜庭は全盛期のオーラが消えたなあという印象しかなかった。それでも勝った秋山は柔道出身の強い選手と思っていたのだが、反則行為があったと知って少しがっかりした。
格闘技関係者のコメントがいろいろあって面白かった。安部譲二は最初からショーと決め付けていて、本気だったら1分か2分しかもたないよと、この話題を相手にしていない。
関係者の誰かが面白いことをいっていた。「あしたのジョー」の中に出てくるが、オイルを塗るのはよくあること、中にはグローブの中にメリケンを入れているのもいた、と話をしている。オイルを塗った体であると対戦相手をつかみづらくなるから、レスラー系の選手には不利だ。さらに、グローブの中にメリケンサックのようなものを入れて殴ってきたら、一発で顔がつぶれてしまう。こういうダーティな手法はかつて格闘技の中でよく見られたということを、さらっと語っていた。
そういえば、ジョーも草拳闘の試合でそういう手合いに苦戦する場面があったっけと懐かしく思い出した。
秋山選手は処分をくらったが、実は、私はけっこう好きだ。あの試合で骨折したらしいし、出場停止で表に最近出てこないが、早くカムバックしてほしい。彼は今度の試合でヒール(悪役)の役回りになったが、それで潰れないで這い上がってほしい。そして、桜庭選手と再戦して、満天下に実力を示したらいいのにと期待している。
蛇足だけど、ヒールはいじめっ子じゃない。私は弱いものをいじめるやつは大嫌いだ。秋山はそんな奴じゃない。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング