おひいさま――お家騒動
4年ほど前、河合隼雄さんご夫妻に京都でのお食事をお招きいただいたことある。
ケルトの旅の番組を制作したことをねぎらっていただいたのだ。私とディレクターの
Oさんの二人が参加した。楽しい会だった。
その夜、先生と別れて円山公園あたりをぶらぶらしたときだ。Oさんが「私の家のお墓がここにあるのです」と言う。そこはお寧々の方で有名な高台寺であった。
こんな名刹に代々の墓があるとは、いったい君の先祖はどこの出身かと、尋ねた。
父君の仕事の都合で各地を転々としたとは聞いていたが、基本的にはOさんはたしか東京出身だと思い込んでいたのだ。「元々O家は九州の中津です」と答える。
東京のお嬢様学校を出て名門私立を卒業したOさんは、うじうじしたところがまったくない闊達な人で職場の誰からも慕われている女性だ。ルーツは九州と聞いて、なるほど大らかな性格はそれに由来するのかと納得した。
中津といえば福沢諭吉の出身地だ。彼女の出た大学の創立者ではないかと冷やかした。
「先祖が福沢諭吉といっしょに長崎に行ったと聞いています」と照れくさそうに答えた。少し驚いた。
東京へ戻って職場の同僚にこの話をした。彼は中津出身でときどき中津藩の集まりの会に出かけて行くと聞いていたから。「それって藩主の弟だよ。ああそうか、よく考えればOだよな。お殿様の名前だよ。」と同僚は驚く。彼の家は城下の米屋で、世が世であれば彼女にお目見え適わずだと呆れていた。
「すごいなあ、君はおひいさまか」と囃すと、「止めてください。そんなたいしたことなんかないですから」と顔の前で大きく手を振る。さすがおひいさまは鷹揚なものだと感心していた。
ずっと、こんな話は忘れていた。
昨夜、海音寺潮五郎の『列藩騒動録』を読んでいたらOさんの一族の話が出てくるではないか。この本は江戸時代に起きたお家騒動のあれこれを綴った本である。O家は「宇都宮騒動」に登場する。あの有名な「宇都宮の釣り天井」に大いに関係があるということを知った。(つづく)
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