2H--えんぴつ
こないだ知人と会ったら、息子の嫁のことで愚痴をこぼす。
「息子が30過ぎて貰うことになったから贅沢は言わないけどさ、気がきかねったらねえんだよ。こうやってさ、薄目をあけて見て見ないふりしてんだけどさ、ときどきアッタマくるんだよ。」
だけど、去年奥さんが亡くなったんだから、女の子が来てくれてよかじゃないと、慰めを言うと、
「まあ、そりゃ悪くないけど。うちのやつも料理はうまいとはいえなかったけどさ、その子の料理ってロンガイだぜ、ロンガイ。仙台の笹かまをさ、切って出してきたんだけどさ、一枚が、コンナぶっといんだ。まるで消しゴムだぜ。
そうそう、その嫁がさ、鉛筆みたいな女の子でさあ、2Hなんだよ。」
何だあ、その2Hってと私が聞くと、
「細くってさ、硬そうなんだよ。ツンツン。」
そうかあ、スリムなんだ。まあちょっと柔らかいHBぐらいなら良かったのにねと出まかせを言う私。
「そう、おれもさ2Bとか4Bを望んでなんかないさ。せめてHBだよな。普通の。」
なんて親父同士のエンピツ談義。
辻征夫の『俳諧辻詩集』でこんなフレーズをみつけた。
《 つゆのひのえんぴつの芯のやわらかき
(親分こんばんは、あれ?
棒なんかもって何やってんです?
棒じゃねえ、これはえんぴつといってな
南蛮の筆だな、これでいま和歌を書いたところだ
半分は残る徳利のふり心地
八が来る夜の雪となりつつ ――平次閑居と
親分これは雨ですよ
やんなっちゃうなあ、ああ蒸し暑い
うるせえやろうだな
いいか、おれの胸んなかにはな
夏でも雪が降るんだよ
熱燗でもなけりゃあ
寒くてならねえ) 》
言わずとしれた銭形平次親分と八のやりとりを詩にしていてユーモラスだが、シュンとするようなセリフもあってどこか切ない。
わたしの知人のえんぴつ話もがらがら言っているのだが、病院のベッドでのことだ。そこがちょっと辛い。
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