「染彩」を読み終えて
先日、角田光代の『夜飛ぶ飛行機』がうまい小説だと誉めた。このごろの若い女の心を巧に描いたことと、作劇のうまさに感動したのだった。
今朝、40年前に書かれた芝木好子の[染彩」を読んで、角田の今風とは違う小説世界の醍醐味を味わった。芝木の小さな世界はまことに緻密にして美しいものだ。そのたるみのない文章の進捗が、読むものを前のめりにさせてゆく。
この作品は昭和40年から42年にわたって書き継がれたと、後記にある。今から40年前の作品だが、私は高校生だったから辛うじて時代の気分や習俗は理解できる。翻って、今の若い人はこの小説にでてくる女主人公の「女の抱く羞恥」などというものは理解できるだろうか。いや、できるであろう。時代を体験しなくても、男女の習俗が変化しようとも、そこに流れる恋の綾はおそらく伝わるではないか。だから、若い人たちにも芝木の作品世界を薦めたい、気分が今の私にある。
この人のことは川本三郎さんのエッセーで知った。たしか荷風の東京とともに芝木の描く東京があまりに鮮やかだと激賞していたのだ。あの川本さんが褒めるのならと思って、1昨日、資料室にあった選集を借り出して読んだ。
この作品を選集で読んだが、解説の福田宏年はこの小説は染色家を描いてるから芸術家小説と呼んでいる。はたしてそうであろうか。これは染色の技術について詳細に述べてはいるが、作者が語ろうとしていることは、女と年下の男のある恋の物語だ、と私は思った。
いまどき、これほど男女のあやを緻密に描いた作品は目にしたことがない。まだ、私の中できちんと纏まらないのでもう少しあとで語ろう。
ただ記しておきたいのは、日本の文化というのは私たちが想像する以上に深いということだ。
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