キレル哲学者
中島義道という哲学博士がいる。ウィーンで博士号を取得したという西洋哲学の研究者なのだが変人だ。自他ともに認めている。当人は真面目に生きている結果そうなるのだから、それを直すつもりはさらさらないし、むしろ変人扱いする世間のほうがはるかに堕落していると考えているようだ。カントを研究してきたという思弁哲学の人だから弁はたつ。大学の同僚たちもできるだけ関わらないように遠巻きで見ていることが、本人のエッセーの中からもみてとれる。
哲学の専門はともかくとして、この人が語る日本論、日本人論、日本文化論はへそ曲がりで面白い。つい書店で著者名を発見すると買いたくなる。『うるさい日本の私』『私の嫌いな10の言葉』『偏食的生き方のすすめ』『私の嫌いな10の人びと』『狂人3歩手前』
この人を有名にしたのは『うるさい日本の私』。川端康成の「美しい日本の私」、大江健三郎の「あいまいな日本の私」をパロっているのはすぐ分かる。
日本の騒音の無神経さに苛立つ著者をあますところなく描いて、逆説的日本文化論として注目された。
だから、最新作『醜い日本の私』が出たときもすぐ内容が推測された。日本の景観について物申すのだろうなあと思ったら、案の定であった。本の帯には〈「美しい国」が好きな人には、読んで頂かなくても結構です。激辛日本文化論〉とある。
とにかく怒っている。何が京都だ、何が桂離宮だ、何が萩だ。壮麗なビルを建ててもなんで膨大な広告でごてごて飾り立てるのか、電柱や電線をはりめぐらすのか、静かな観光地に雷のようなスピーカががなりたてるのか、整備された田んぼの真ん中に原色の巨大な看板を立てるのか、美しい海岸線をなぜ破壊するのか・・・・・。
日本人は見ていながら見ていないように幼い頃から仕付けられている。心のもちよう一つで見えなくなる、聞こえなくなるというふうに、日本人は象徴的=観念的な物の見方をたたきこまれているからだ、と哲学者は分析し、現状を見て嘆くのだ。この人の怒り方嘆き方がオオゲサで演劇的でめっぽう面白い。
この本はひょっとするとエンターテイメントとして書いているのではないかと思ってしまうほどだ。むろん当人はそんなことは思っていない。そこが、外野から野次が飛ぶゆえんだろう。
あの斉藤美奈子が中島の本を茶化しているのが面白かった。哲学者という絶滅危惧種が日本文化を論ずるというのは、パンダが朱鷺に説教するようなものだとか、なんとか。とにかく哲学の中島義道が論ずるというと敷居が高いが、カンニングの竹山のように「キレル芸」と同じと思って読むと、けっこう読める。
ちょっと気になるのは、首相の「美しい国」とは一線を画すといいながらどこか同調しているように読めるのはなぜだ。
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