師走のタクシー
「はーい、どのルートで行きますか。なにせ自分の考えた道がいちばんいいと思っているお客さんが多いもんで。もう逆らわないことにしてるんすよ。」
「あたしはね、この時期が一番嫌い。道は混むし危ないことは多いし」
「え?何かあったのって。いやあたしじゃないけど、金取られたりしてますからね。刃物使ってさ」「うちの運転手で腕に覚えがある人がこないだ乗せたら、首筋のところへ冷たいものを押し付けられたんだって。それでさあ、そのナイフを奪おうとしたら手のひらをざくっとやられたんだ。全治2ヶ月。その人は3万8千円取られたって。でもねえ、命があっただけいいじゃない。」
「あたしの場合、この間、乗り逃げされましたよ。越谷まで行って、また新宿へ戻るからというので、往復3万5千円ぐらいになると思ってホイホイしてたんすよ。着いたら今この家の者に話をして戻るから待っててと言うので、待ってました。」
「そのままドロンですよ。え?乗せているとき気がつかなかったのって。そんときは分かりません。後で考えたらそわそわしてたかなあって思いましたけどね。」
「いま、2種免許とるのは楽ですよ。あたしんときが一番厳しかった。もう会社じゃ、女性運転手大募集ですよ。うちには20人ぐらいいるかな。でも冗談通じないのばっか。」
「でもねえ、あんなのでもさわる客がいるんだって。ばかじゃないのかな。髪なんか梳かずにもしゃもしゃの頭してるんすよ」
「わたしはないかって?そりゃありますよ。誘われることなんか月に2回はありますよ。そういう意味じゃ、運転手ってものも悪くないすよね。
え、どうやって誘われるかですか。たいてい料金の代わりに体で払うって言うんですよ。そんなにひどいのが言うのじゃないですよ。30そこそこのそれなりの女ですよ。よく言や純情、悪く言えば尻軽ってのかな。」
「えー?そんなの純情って言わないって。いやあ、あたしなんかを誘ってくれるんだから純情ですよ。田舎にいるときなんか、そんなことなかったもん。」
「ああ、景気がいいんだか悪いんだかわかんないすよ。そのうちカクメイが起きますよ。あたしは思ってるんだ。一晩でカクメイがバーンって起きるんすよ。」
「イシハラなんてふざけてますよ。才能があるなら息子でも使うって。ばかじゃないの。才能があったらそんなとこでやってないで、他にお呼びがかかりますよね。かかんないから親父が呼んだじゃないの。」
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