大隠は市に隠る
大隠は市に隠る――中国のことわざ。本当の隠者というものは人里離れたところで隠棲するものではなく、むしろ町中住むものだという意味だ。私の場合、隠者を賢者と読み替えてみたい。
昨日、関西弁のカリスマに会った。相変わらず熱くまくしたてる。 強引なくらい理路を通す人だが、がらっぱちの言葉と違って考察は深い。なにせカリスマは元大学の先生。わけあって、教師を辞めてギョーカイに遅れて入ってきた人物だ。番組は年に数本ほどしか作らないが、ずっと澁谷の雑居ビルに潜んで世の中を凝視している。
本人も認めるとおり、勉強が好きだ。専門の経済だけでなく宮部みゆきなどのミステリーから社会システム論までさまざまな分野に目を配りレジュメを次々と作成している。
その一本を読ませてもらった。
トーマス・フリードマン著『レクサスとオリーブの木~グローバリゼーションの正体』がテキストだ。これをA4横書きのペーパーで47枚、びっしりと書かれてある。半分ほど読んだが実にすっきりと難しい本をまとめている。
グローバル化ということについてジャーナリストの目で切り込んでいるのだ。著者はNYタイムズの記者でピューリッツアー賞を受賞している。今や歴史の推進力として冷戦のような対立構造でなくグローバリゼーションが動かしていると説く。その利点をつぶさに挙げながらグローバル化のアキレス腱を指摘している箇所が私には気になった。
それは所得格差の拡大だ。勝者が桁違いに儲けられる一方、ちょっとの差が決定的なものになり格差が目をむくほど拡大するというのだ。トップにいる者は分不相応な取り分を得る。
ビル・ゲイツの資産は、アメリカ人の貧しいほうからの1億600万人の資産の合計と等しいというのだ。ひとりで106000000のアメリカ人分と同じだと。
所得だけではない。世界の裕福な5分の一が総エネルギーの58パーセント消費し、貧しい5分の一はたった4パーセントしか使っていない。裕福な5分の一が肉類魚類の45パーセント摂取しているのに貧しい5分の一は5パーセントしかない。そのほかの数値もほとんど同じ比率が続いている。
負け組になったら最後だ、なにがなんでも勝ち組にという論理に立つのか。それともこの格差拡大の化け物のようなシステムを廃棄させるのか。著者は後者は無理だと考えている。グローバル化はほぼ不可逆だと考えている。グローバル化の最大の脅威はグローバル化そのものしか見当たらないとしている。
本質的な弱点とはならなくとも、グローバル化の推進のなかで現われてくるのは、置き去りにされた人々の間から噴出してくる犯罪の波だ。60億の人類はどうやって対応していくのだろうか。
とまあ、レジュメを読むにつれ、こちらの問題意識をかきたててくれるような筆致と整理にカリスマ氏の実力をあらためて感じた。この大隠の素顔がめっぽう面白いのだが、今の段階ではまだ公表できない。それが残念だ。
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