藤沢周平の新しい小説
周平人気は衰えない。
今度、木村拓哉が主演する映画「武士の一分」も藤沢原作と聞く。最近、一人娘の展子さんが書いた伝記も出た。ファンは藤沢の新しい小説を求めていた。
藤沢が死んだのは平成9年。かれこれ8年になるか。この度、新しい小説が出版された。『未刊行初期短編』である。彼が無名時代に小さな出版社で書いていた短編が14ほどあって、それが発見されて今回文藝春秋社からまとめて出版されたのだ。
藤沢の名がつくと読みたくなる私はすぐ購入して、少しずつ読み始めている。いっきに読もうと思えば読めるのだが数少ない未読の藤沢小説を、乱雑に読みたくないのだ。何だか美味なものは後回しにする貧乏人根性だがこれでいいのだ。
巻頭の作品「暗闘風の陣」は驚いたことに隠れ切支丹ものだ。メジャーになってからはこの題材は取り上げていないが、他に1編切支丹ものがあると解説がある。意外な作品に思えたが、よく考えると無名の作家が面白い素材を見つけようと、いろいろ手を尽くしたのだということが分かる。
巻末の「無用の隠密」を読んだ。公儀から庄内藩に送り込まれた“草”としての隠密の運命を描いた作品だ。後年、この存在を使った小説がいくつかあったと思う。冒頭の越中の薬屋に扮した若い隠密が庄内浜に入ってくる風景描写はさすがだ。簡潔にして清冽で美しい。俳句で鍛えられた言葉使いと推測する。
この小説もそうだがやはり若書きだと思う。ストーリーに無理があってあちこちに穴がある。読了後の爽涼感がやはり円熟期のものに比べるとほとんどない。
でもこの小説集を読んでいると嬉しくなってくる。こうして修業を積んで後年のあの名文にたどりつくのだと思うと、他人事ながら慶賀にたえない。解説の阿部達二のキャッチフレーズに同感する。「助走時代の作品に触れることが出来るのはわれわれ読者にとって思いがけないプレゼントであった。」
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