夜更けに俳句
深夜の山に一人でいる。テレビも面白くないので、結城昌治の『俳句つれづれ草』を読む。
結城はミステリーの作家だが、俳句の名手として名高い。彼の俳句こそ療養俳句というジャンルの一つの峰にあたるだろう。
結核にかかり、戦後長く清瀬の療養所にとどまる。そこに石田波郷がいたことが幸いして句作をはじめるのだ。隣室には作家の福永武彦もいたという。ここで結城はめきめき頭角を表す。彼の句もいいが、彼の選句もすばらしい。その審美眼で選んだ句を、今夜はのぞいてやろう。無論、秋とりわけ晩秋の句を中心に見て行く。
もらひたる柚(ゆず)にも峡(かい)の日のむくみ 夕爾
私の好きな備後の詩人、木下夕爾の句だ。彼が住んでいた福山にはいくつか谷があった。
紫陽花に秋冷いたる信濃かな 久女
杉田久女は田辺聖子の名伝記がある。これは面白かった。一読を薦める。
塀について塀をまがれば秋の風 万太郎
久保田万太郎は本当にうまい。この人は戦時中、NHKの文芸部長か課長だったとは。
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉(とんぼ) 漱石
この句は有名な修善寺大患の後の句であろうか。
中年や独語おどろく冬の坂 三鬼
西東三鬼は中年句をいっぱい作っているが、この句は身にしみる。今、こうして句を写しながら私も独語している。
葱(ねぎ)買うて枯れ木の中を帰りけり 蕪村
秋の暮れに買うもので葱ほどぴったりのものはない。蕪村という人は今いたら村上春樹みたいな人かな。
結城昌治自身の句を探したが見つからなかった。それが少し惜しい。
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