サノヨーコの謎
佐野洋子の新刊『覚えていない』(マガジンハウス)を読んだ。下品だ。
ホントにこの人は品がない。人間の大事なものは2つあって1つはお金で1つは愛の生活だって。その後者は《遠まわしに言ったけど、愛の生活ってセックスライフのことである》とあけすけに書く人、それがサノヨーコである。
だいたい言葉のセンスが変態だ。男性器はチンチンと書くくせに女性器は××××と表記するんだぞ。余計いやらしいじゃないか。しかも自分の性の側を伏字にするというひん曲がった根性。
先日、椎名誠のキャスターによる絵本の特集番組を制作したが、ここだけの話、椎名VS佐野対談を当初予定していた。ところが直前になって、サノさんが体調を崩し“異色対談”は流れた。惜しかった。めったにテレビに出ないサノさんを引っ張りだし、彼女が「日本の最後の男」という椎名氏と対話するなんて、こりゃ僥倖というもんだぞと張り切っていた。なのに体をこわしただなんて・・・。そういうこともあって、サノさんの近況が気になって新刊本を求めて読んだのだ。
サノヨーコという存在は謎である。当人は忘れているかもしれないが、30年ほど前私の担当するラジオ番組に、出てもらったことがある。そのときの印象は悪かった。いかにもギョーカイ風の言葉を放ち、タバコをすぱすぱくゆらすヤンママだった。親友とかいう女友達をそばに置いて、そっちとばかりしゃべっていた。入社間もないような私など、目に入らないといったかんじで、女友達と男の話ばっかしてた。
それでフシギに思った。なんで、この人があの佐野洋子なんだろうって。だって、現代絵本の名作、古典とも言うべき「100万回生きたねこ」の作者が佐野洋子だよ。とても私が会ったサノヨーコと同一人物に思えない。あんなに愛することの見返りを期待しない、純粋な愛の物語を描いた、絵本界のバイブルともいうべき作品の作者なんだよ。信じられるか。
私が会ったサノヨーコは美大出身の翔んだ女で、ファニーな顔をしてスタイルがよくってバイクが好きで布施明が好きな、ミーハーなおんなだった。そのミーハー姉さんが戦後詩檀の大物にして知性派詩人の谷川俊太郎と再婚したんだよ。これもサノヨーコの大きな謎の一つだ。どこに二人は惹かれあったのだろうか。まあ余計なお世話だが気になる。知りたい。
と、一筋縄ではいかない、くえない小母さん(当人がそう名乗っている、68歳になったんだって)が書いた新しいエッセーがこれまた結構なもの。グヒヒヒと下品な声で笑いたくなる代物。そのくせいったん本を置いた後からじわーっと何かがこみあげてくる。まだ読んでいない方にはぜひ読んでもらいたい。平明な文章で、表現が感覚的かつ映像的で読みやすく、私は帰りの電車1時間20分で読了した。
ここまで書いてきて、気がついたことがある。ラジオの打ち合わせのときに女友達が侍(はべ)っていたことだ。サノさんは照れていたんだ。一人でラジオの取材を受けるのが恥ずかしかったんだ。真面目なラジオ第2放送のトークをすることを照れていたんだ。だから友達を呼んでおいたんだ。煙草をやたらめったら吸っていたんだ。
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