バブルの時代にこんな人がいた③
取材は初夏から中秋まで続いた。ニッキーは経験がほとんどないので、介添えにベテランのU沢ディレクターを立てた。カメラマンは北海道から転勤してきたばかりのI田君だ。素朴で無口でにこにこ笑っているI田君が凄い腕の持ち主だとは、当初予想もしなかった。
完成した作品を見てもらえば分かるが、盛り上がりのない淡々としたドキュメンタリーだ。いわゆる画のならないエピソードばかりだ。あるとすれば、3つのハイライトシーンがある。
1つは蝉の羽化。2つめは自閉症の少年との語らい、3つめはライフワークの絵を描きあげる。とても、ゴールデンの時間帯に流れるような話ではなかった。特に、当時はバブルで豪華や美食ということがこれでもかと言わんばかりに華やかに番組として仕立て揚げられる傾向がつよかった。その中で、ぽつんと地味な番組が放送されたのだ。
3ヶ月のロケで、節目で撮影したビデオを私は目を通した。I田カメラマンの力量に目をみはった。熊田画伯が昆虫を観察するシーン。虫は近づいただけでもすぐ逃げるものだが、画伯の場合はそういうことがない。だが撮影するカメラマンは別だ。彼は虫にとって外敵と疑われる存在だ。画伯がどれほど観察できても、その光景をそばで撮影するのは無理であろうと私は諦めていた。
ところが、撮れてきた映像はすべて至近距離だ。ズームで撮影しているわけでなく、自分の気配を消してきちんと虫と画伯の関係を押さえていた。虫は撮影されていてもいっこうに逃げないのだ。いったい、どういうふうに撮影したのかと、首をひねるスーパーショットがいくつもあった。
ドキュメンタリー「 "私は虫である"」
放送日時予定:2006年11月12日(日)午後11時10分~(そのなかの約45分間)
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