異説、外伝、スピンオフ
先日視聴した映画「容疑者、室井信次」は「踊る大捜査線」のスピンオフ作品だ。スピンオフとは人気作品のサブキャラクターをフィーチャーしたもので、元の作品のバックボーンや後日譚を描いたりするものである。
映画「踊る大捜査線」はそもそもテレビから生まれて人気を博した。織田裕二演じる青島巡査部長が主人公の警察ドラマだ。従来の刑事ドラマとは異なり、警察機構を会社組織に置き換え、署内の権力争いや本店(=警視庁)と支店(=所轄署)の綱引きなど人間味あふれる警察官の姿を、湾岸署を中心に描いている。
主人公の青島以外にも、恩田すみれ(深津絵里)・和久平八郎(いかりや長介)・真下正義(ユースケ・サンタマリア)などの湾岸署の同僚や湾岸署の署長ら三人組(通称『スリーアミーゴス』)、更には警察庁のキャリア・室井慎次(柳葉敏郎)らもそれなりに描かれる群像劇でもある。
この群像の中のある個性を取り上げて、別物語を仕立てるのがスピンオフというわけだ。私が先日見たのはキャリア室井の物語で、この映画自体は最悪の評価だったが、この物語を連動(リンク)させていく手法には感心した。
このように本筋の物語から少しずれて物語を生み出すという手法は映画であれ文学であれ、私は好きだ。映画で代表的なものは「ベンハー」だろう。
キリスト誕生から26年、ユダヤがローマ帝国の圧政下、ローマ進駐軍に新しい指揮官がやって来る。ユダヤ人の豪商の息子ベン・ハーの幼友達メッサラである。二人は友達であったが、ベンハーは祖国を踏みにじるローマへ走った親友メッサラとは相いれず、絶好状態となる。のみならず、ベンハー一家は反逆罪に問われ、母と妹は地下牢に、ベン・ハーは奴隷としてローマの軍船に送られる。
そして3年、ベン・ハーは、数奇な運命を経て、ローマきっての剣闘士ともてはやされるようになる。故郷へ帰ってみると、母と妹が地下牢で病に冒され、メッサラの手で死病の谷へ送られて死んだときくことになる。ちょうどそのころ、キリストが十字架を背負って刑場へ向かっていた。
といった具合に、ユダヤ人ベンハーの運命が実はキリストの生涯と交差するものであったという、キリスト伝説外伝である。
文学でいえば、丸谷才一の『横しぐれ』が私のお気に入りだ。主人公が父から聞いた話から物語が解き明かされる。父と、黒川先生とが、あの日四国の道後の茶店である人物と行き会う。酒飲みの乞食坊主だ。その男は「横しぐれ」という言葉を発した。たった一つの言葉を残して男は雨中を去っていった。後になって考えてみると、彼は放浪の俳人山頭火だったのではないだろうかと、父が口走る。そこから物語のフシギが始まるのだ・・・。
こういう歴史的事象事件の一断面を、さっとすくいあげた小説というのは、読んでいてわくわくする。
本日、植草甚一を読んでいて、山田風太郎にそういう作品があることを知った。タイトルは忘れたが、国定忠治の息子の話だ。捕えられた忠治に忘れ形見があった。長じて、息子もいっぱしの悪党になった。上州で食い詰めて江戸に悪仲間とともにやって来る。そしてある夜、富裕な家に押し込みに入る。家族を脅しているときに、籠に入っていた赤子が泣き喚く。忠治の息子はうるせいとばかりにその籠を蹴っ飛ばす。という話だ。
愉快なのは、この後だ。この蹴っ飛ばされた赤子こそ夏目漱石だと、山田風太郎は書く。そのことは、漱石の「硝子戸の中」に書いてあるとか。
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