シーナマコトの世界
絵本の番組を作った女プロデューサーから聞いた話。
「佐野洋子さんって、いわゆるマッチョな男は嫌いだそうですよ。」
そうだろうなあ、『百万回生きた猫』のようなナイーブな物語の作者だから。
「筋肉質で色が黒くて、シャツをはだけて着て、いい年の癖にジーンズをはいていたりする男って、大嫌いなのだそうですよ。」
なるほど、内剛外柔の繊細な詩人のような人種が好きなのだ。
「でもね、シーナマコトだけは例外だって。シーナマコトだったら、どんな格好でも許すってどこかに書いていましたよ」
「椎名誠の絵本を旅する」で、今回じっくり編集室でシーナ氏と付き合って、佐野さんが言っていることが分かった気がした。二人の子供が幼かったころ、膝において絵本を読み聞かせたということを回想するシーナ氏は、照れていながらも真率で好感がもてた。ポーズでそういうことを言っているのでなく、読み聞かせたという当該の古くなった絵本を持ってきてくれた実直さや、その本が何回も使用されたことを証明するセロテープのつぎはぎから、分かった。
これまで、きちんとシーナ氏の著書を読んできていない。『哀愁の街に霧が降るのだ』や『さらば、国分寺書店のオババ』など、ベストセラーになったときは、「けっ、昭和軽薄文体かよ」と本の表紙だけ見て通り過ぎていた。峰岸達のイラストは気になっていたが。だいたい、旬の本とか流行語というのはすぐ読んだり使ったりするのは抵抗がある。
「萌え」とか「べた」とかという最近のはやり言葉はひっかかる。『国家の品格』とか『バカの壁』とかいったべストセラーにはけちをつけたくなる。ゴマメのやっかみだ。そんなこんなで、これまでパスしてきた本を、ぼちぼち図書館で借りては読みはじめた。
昨日、目黒図書館で借りたのは『新宿熱風どかどか団』、『銀座のカラス』『屋根の上の三角テント』いずれもシーナマコト著、『小説は電車で読もう』植草甚一著、『幻の男たち』淺川マキ著らである。
『新宿熱風どかどか団』を読んでいたら、知っている名前に出会った。「週刊ポスト」の編集者、高橋攻氏だ。どこで会ったか忘れたが20年ほど前に、2,3度いっしょに新宿で飲んだことがある。ちょうど、この『新宿熱風どかどか団』に高橋さんが登場したころだ。高橋さんは、この本ではPタカハシと呼ばれて、シーナ氏の連載を担当していた。「ラーメンの本場中国へのラーメン西遊記」とか「ヘンタイうどん化した町、高松緊急視察団」とか、シーナ初期名作ルポの影の功労者であった。
たしかに、面白く口八丁で有能な編集者だ。その後、「ポスト」の副編集長や他の雑誌の編集長を務めたと思うが、もう定年で家にいるのだろうか。私にとって忘れられないことは、この人は鞄マニアだったということだ。仕事柄必ず携帯するショルダーバッグについて、うんちく、ノーガキがすごい。自分でデザインして特注で作らせたものを、何代も重ねて持っているのだ。鞄機能について、酒を飲んでいる間中はなしていた。その後、タカハシさんから作家やイラストレーターを数人紹介してもらうことがあった。広島へ転勤した頃から間遠になってしまった。
シーナ氏は、こういう異能の人物に囲まれて、一歩一歩成長していったのだな。だんだん、興味が高まってきた。来週は会社の資料室でシーナ本を探してきて、片っ端から読もう。
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