多重映画脚本家
桂千穂というシナリオライターがいる。映画化されたシナリオが79本というから、たいした実績だ。
昭和47年、デビュー作「薔薇の標的」、主演は加山雄三。そこから続く作品がすごい。「熟れすぎた乳房」「女高生・肉体暴力」「SEXハイウェー」「海女レポート・淫絶」「暴行切り裂きジャック」「むれむれ女子大生」・・・・蜿蜒と続く。これらは大半日活ロマンポルノだ。53本、最多のシナリオ作家だ。ここで腕をきたえた、女ながらに。
と思ったらオッサンだった。
1929年生まれで、本名島内三秀。シナリオの道に進んだのは大伴昌司の励ましにあると、本人は回顧している。この夏、世田谷文学館で開かれた大伴昌司シンポジウムにパネラーとして参加された。そのとき大伴のシナリオ修行時代の話をうかがったことから私は知った。桂千穂は70過ぎの小柄な「おじいさん」になっていた。
桂さんはシナリオ研究所で大伴と同席したことから、推理小説同好会に誘われた。二人が意気投合したのは、ホラー映画のベストワンは中川信夫監督「東海道四谷怪談」だということからだ。二人とも、社会派、ヒューマン映画は好きではなかった。テンポとかリズムのない映画は嫌い。
70年代後半から、桂さんは商業映画で活躍を始める。「ハウス」「女王蜂」「蔵の中」「俗物図鑑」。80年代になるとヒットを続々飛ばすようになる。「幻魔大戦」「アイコ16歳」「唐獅子株式会社」。そして大林宣彦監督と組んで名作も飛び出してくる。「ふたり」「廃市」「あした」
桂さんの映画の見方、シナリオの書き方がインタビュー集「多重映画脚本家」(ワイズ出版)に出てくる。おもしろいから引用する。
シナリオに流行語は取り入れない、すぐに古くなるから。
「今は、へんな映画しか見ていないオタクが、8ミリとかビデオで自主制作やって、そのままプロの映画とっているでしょ?それじゃいけないんです。オーソドックスな、起承転結のちゃんとした映画をですね、最初に見なくてはいけないんです」
人物描写は一貫性さえあればいい、「人間を描け」も程度問題だ。人間を描くことばかりに足をとられていると、映画がつまらなくなる。シナリオは技術だ。
テレビシナリオは大嫌い。
とにかく、ヒューマンで湿っぽい映画は嫌いなのだ。筋がしっかりしてテンポがいい映画をよしとする。おまけに性的暴力的破壊的趣味が濃厚。これが桂千穂ワールドだ。インタビュー集を読んでいても、過激な発言がぽんぽん出てくる。
ところが現実に出会った桂さんは、文字通り男でなくおばあさんの印象だった。小柄で丸くてぐずぐず言って。著書や映画で示しているイメージとまったく違うのだ。へんな人だ。こういう人と気が合った大伴昌司も相当変だったのだろう。
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