今年最高の傑作「わたしを離さないで」
カズオ イシグロの新作『わたしを離さないで』を読んだ。この本は今年最大の収穫であった。原語のタイトル「Never Let Me Go」。
映画「日の名残り」を見て、気に入らなかったのでイシグロの著書を読むのを敬遠していたが、若い友人がこの本を薦めてくれたので読んだら、たまげた。すばらしい文学であった。
物語の本当に荒い筋だけ記そう。優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる 人々を12年間世話をしている。
彼女がそもそも生まれ育ったのはヘールシャムという施設であった。そこの子供たちは保護官の指導を受けて、最高の教育を受けるのではあるがどこか奇妙な施設であった。 ヘールシャムという場はまったく日常にあるにもかかわらず、強い違和を読むものに残してゆく。肉親という存在がまったく希薄というところに、このなぞの根源があるのだが。
その施設で過ごしたキャシーの青春が、みずみずしい。かけがえのない友人としてのルース。その恋人であるトミー。ルースの死後、二人は結びつくのではあるが。
彼らの境涯は謎に満ちていて、そのなぞが彼らの話し合いの中から解かれてゆく。施設の秘密が次第に明らかとなり、彼らの「生」も明るみに出てくる。誰かがこの作品の評価としてある種のミステリーと書いていたが、それはお門違いであろう。作家はけっして通俗化しない。
提供者とは何か、介護者とは誰か。読み始めると、目が活字を渇望してゆく。そして現出する世界はまるでジョージ・オーウェルを思わせる近未来だ。この点において、この小説をSFとカテゴライズする慌て者がいる、だがそうでもあるまい。今読了したばかりで、感想がまとまらないのだが、何かを書き残しておきたかったのだ。
この本のコピーは、「2005年に発売された英語圏の小説でもっとも話題になった一冊。謎の全寮制施設に生まれ育った若者たちの痛切なる青春の日々と数奇な運命を感動的に描くブッカー賞作家の長編。」
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