焚き火と絵本
辻邦生が「野生と文明」というルポルタージュのシリーズを構想していたと書いている。
技術化された近代文明の人間の意味を、野生社会と接して生きている部族社会の人生をみつめて問い直そうとしていた。このシリーズは結局未完になったが、その試みは今も有効ではないだろうか。
砂漠地方へ行くと、頭に水がめを載せた女たちの列を見かける。長い道のりを歩いて水を汲み運ぶのだ。われわれの眼から見ると、何と不便なことかと呆れてしまうが、はたしてそうか。泉に水汲みに行く喜びというものがそこにはあって、われわれはそこから遠く離れてしまった。
辻は風呂のことを例にあげている。今では水道をひねれば水は出るし、湯を沸かすのも容易だ。便利ではあるが、風呂たきという「情趣深い営み」を現代人は追放してしまったというのだ。
風呂焚きどころか、銭湯すら私たちの生活圏から追放した現在、便利と引き換えにずいぶんいろいろなものを失っていると思えてならない。
来月放送予定で、「絵本」の番組を制作している。ナビゲーターは椎名誠。NHKのテレビには久しぶりの登場である。意外なことに椎名さんは絵本に昔から関心をもっていた。子供が小さかった頃、よく読み聞かせをしたという。この絵本について、脳学者の茂木健一郎氏と椎名さんは対話する。それが焚き火対談だ。焚き火をしながら、絵本について語ろうという趣旨である。茂木氏の持論は、絵本は焚き火である、だ。どんな議論が出てくるのやら楽しみだ。
放送は10月14日、土曜日夜10時から。
ETV特集「椎名誠の“絵本を旅する”」
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