新しい才能
衛星放送の映画担当渡辺支配人とは気があう、仲がいい。
なんといっても、局きっての映画通。古い映画も新しい映画もよく見ているし、鑑賞眼も相当なものだ。
彼はサンダンス映画祭の日本での選者でもある。今年の状況を聞いたところ、レベルは高いとのこと。
こんな才能も出現してきました、と言って見せてくれたのが、「ハリヨの夏」だ。脚本、監督の中村真夕はまだ32歳だ。
だが、その経歴は華々しい。高校時代からロンドンへ行き、ロンドン大学で学んだのち。アメリカに渡る。そこでコロンビア大学で学んだのち、映画作劇術をニューヨーク大で覚えたという女性だ。こういうインターナショナルな人物が、新しく登場してきたのだ。
映画は98分。京都に住む高校生の女の子サヨコ。ひと夏の体験とでもいうべきか。話は分かりやすいのだが、少女の揺れる気持ちがうまく表されている。
団塊世代の夫婦、柄本明と風吹ジュンの長女が主人公。父と母はもう別居している。若い頃、詩を書いていた父も母を裏切って今では別居していて、サヨコはときどき父と会う。その父からハリヨという小魚をもらいサヨコは水槽で飼っている。母はライブハウスで歌を歌いながら飲食店を営んでいる。客にアメリカ人キャメロン・スティールがいる。
サヨコにはボーイフレンドがいるが何となくもどかしい関係がつづく。そういうなかで、父には新しい妻が出現し母はキャメロンと親しくなるにつれ、サヨコは苛立つ。
キャメロンはベトナム戦争に従軍して負傷して、足が不自由となっている。その彼が母のボーフレンドとしてサヨコのことを心配してくれるうちに、二人の間が微妙に近づいてゆく。というよりサヨコが無軌道にキャメロンにぶつかってゆく。そして二人は結ばれ、あろうことかサヨコは男の子を身籠る。サヨコは高校を退学する。
若い母となり、子育てがうまくできない。母のサポートで辛うじて成り立っている。ある日、サヨコは赤ん坊を抱いて、キャメロンが勤める大学へ行く。彼と会って3人で暮らしたいと話しをすると、それはできないと否定される。
絶望したサヨコは早朝赤ん坊を抱いて賀茂川に足を入れるのであった・・・・・。
取り立ててストーリーに目新しいものがあるわけではない。主人公も華やかさがあるわけではない。人物像もやや月並みだ。が、話の運びが実になめらかで、次第に少女の揺れる気持ちが見えてくるのだ。
むろんワキを固めている柄本や風吹の力も相当ある。手持ちカメラの撮影は危ういような達者なような不思議な画の撮り方だ。
総じて荒削りだが、中村の才能は十分感じられる。こういう力がいつのまにか日本にも生まれてきたのだと感心した。
渡辺支配人によると、今年の日本映画はけっこうレベルが高いそうだ。毎年行われるキネ旬のベストテンに「嫌われ松子の一生」や「紙屋悦子の青春」は入るだろうねと、うれしそうに評価していた。単館で上映される作品をしっかりチェックしておかなくてはなるまい。
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