愛のライフル
久しぶりに自分の部屋を整理していたら、古い取材ノートが出てきた。
向田邦子さんの秘めた恋を調べたノートだ。その中に、彼女が作詞した歌詞カードがある。
向田が作詞していたことはあまり知られていないが、テレビドラマの主題歌など7曲ある。今朝、見たのは「愛のライフル」。
誰かが二人をライフルで狙った
二人の胸から
赤い血が流れる
足はよろめく
目はみえない
ああ もうだめ・・・助けて
それから 私は女になった
それから 私は男になった
二人は立っている
恋の恋の 死刑台
運命のきずなに
かたく かたく しばられて
しあわせな バラ色の恋のめかくし
古い手紙と アルバムを
恋のお墓に うずめよう
友だちは 黒いドレスで
告別式に やってくる
さよなら さよなら
思い出よ さようなら
二人は立っている
恋の恋の 死刑台
運命のきずなに
かたくかたく しばられて
しあわせな バラ色の恋の目かくし
二人は立ってる
恋の恋の 死刑台
なんとも風変わりな恋の歌だ。およそ「恋の死刑台」などという不吉な言葉使いは普通しないものを、向田は大胆に使いこんでいる。たしか、この歌は昭和52,3年ごろ放映されたドラマ「桃から生まれた桃太郎」の主題歌で、もちろん向田の過去などまったく知られていない頃に作詞されたものだ。誰もこの歌に隠されたものがあるとは、当時気づいていない。
だが、私が向田の秘めた恋を知ってからこの歌がやけに気になり、テイクノートしておいたのだ。
この歌は若い頃に失った向田の恋人を無意識に描いていると私は思う。詳細は書けないが、向田の恋は禁じられた事情がある。だからたとえバラ色の思い出があろうとも二人は処刑されねばならなかったのだ。それから二人は、女になり男になったのだ。
そもそも、直木賞を受賞する作品となった『思い出トランプ』という連作小説には、濃厚に亡き恋人の面影があるではないか。受賞後、向田はこんなことをインタビューで答えている。「私のプロデュースで、レコードを作りたいのよ。LPよ、タイトルは『思い出トランプ』にする」
このレコードは、作詞向田邦子、補作阿木耀子、作曲宇崎竜童で作られる予定であったが、不慮の事故で企画は幻となった。
いつか、この歌の意味を解く旅に出たい。北国へ――。
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