夢遊病者のように
「福井新聞」を読んでいたら、俳優の奥田瑛二さんがモントリオール世界映画祭でグランプリを受賞したとして、「ひと」欄で取り上げていた。監督した「長い散歩」が授賞作品だ。
映画の要約によると、定年をむかえた元校長が虐待されていた少女を連れ出して旅に出るとある。その校長は現役時代仕事に追われて家庭をかえりみなかった。そのことで自責の念を抱いている。二人の旅にさまざまなことが起きる。でもこれは旅ではなく、「長い散歩」と奥田さんはしているところに仕掛けがありそうだ。なんとなく、ストーリーの方向が見える。おもしろそうだ。主演は名優緒方拳。
奥田さんはこれまでに何本か監督はしているから素人ではない。だが、シナリオを書いたのはこれが初めてだった。「今回の受賞でやっと映画監督として認知してもらえる」と喜ぶ奥田さんの声も理解できる。
このところ日本映画は盛んで本数だけは増えている。おそらくDVD販売などで収益が確保できるというビジネスモデルが確立できたのであろう。隆盛は結構なことだが、作品の質がかならずしもいいとはいえない。むしろ、アニメやホラーなど「売れる」作品ばかり増えている。独立プロダクションの作品はなかなか劇場にかからない。そんななかでの「長い散歩」が受賞したのである。
受賞は快挙といっていいだろう。映画作りの「もう一つの道」を示してくれた。
その喜びの声が、「ひと」欄の冒頭に紹介されている。
《授賞式で『ナガーイサンポ』と呼ばれ、夢遊病者のようにステージに上がって、その後のことは覚えていない。》
あの日のことを思い出した。1995年秋のニューヨーク、ヒルトンホテルでのことだ。病み上がりの私は何も期待しないまま会場にタキシード姿で座っていた。
司会がグランプリを発表した。「ケンザブロー・オオエ 30イヤーズ トウ ファザーズフッド」そばにいたアメリカ支局の同僚が「呼ばれたよ」と私を腕で突っついた。国際エミー賞のアートドキュメンタリーで選ばれたのだ。それから後の記憶がさだかでない。
まるで、「夢遊病者のように」歩いた。司会のピーター・ユスチノフが「コングラチュレーション」と声をかけてくれたのを辛うじて記憶する。足がふわふわと浮き上がっていた。英語でスピーチをした感触はかすかにあるが、どう発音発語したか覚えていない。最後に「Rejoice!(リジョイス)」と声を張り上げたことだけを体が覚えている。
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