児童虐待
8月8日に放送された「日本の現場」が心に残った。埼玉の児童相談所の実態を描いたドキュメンタリーだ。
4年前、埼玉が全国で児童虐待がもっとも多いという報告が出たとき、48時間以内に子供を保護しようという取り決めが出来た。そのため、この活動に関わる所員たちは猛烈に多忙となった。その姿をカメラは追っている。
あからさまな虐待の場合であれば保護措置をとることに迷いはないが、そうでない場合が難しいしまた多い。育児ノイローゼであったりしつけと称して虐待が起きているときだ。
十代の女子が突然来訪してきた。幼い頃から親に虐待されてきた。学校へもあまりやってもらえず家事の手伝いをさせられてきた。高校へは進学させてもらえなかった。今日は家に帰るのが遅れたので帰ったらなぐられるかもしれない、だから家に帰りたくないと訴えるのだ。
親を呼んで事情を聴取する。その女子は幼い頃からウソをつき、怠けることが多かったので厳しくしつけたのであって虐待などしたことはないと、その母は証言する。学校へ行くことを止めて就職させたというのは事実ではないというのだ。高校へ行きたいという女子の話を聞いて、母は驚いていた。外出禁止などしてはいない。
もちろん、この証言をカメラが撮影しているわけではない。すべて聞き取った相談所所員の報告で表現されている。顔にモザイクをかけてインタビューする“下品”な手法を使ってはいない。(モザイクをかけることが悪いというのではない)
番組のディレクターの所員に対する問いかけが適切かつ明確なので、伝聞事実だが状況が仔細に浮かび上がってくる。そこに浮き上がってくる、親と子の言葉のくいちがい、心のすれちがい。
さて、このケースではどちらが真実なのか。相談所の須藤氏にどう思うかと聞く。彼は正直に「分らない。本当に分らない」とつぶやく。だが、その夜女の子は保護された。それについて須藤氏はこう語る。
「子供が帰りたくないと言ったら帰せない。状況がこれほど不明なのに子供が帰りたくないと言うのであれば、帰すわけにはいかない。」こう語る須藤氏の横顔は苦しそうであった。
今、保護施設は満杯で、案件が目白押しで並んでいるのだ。
この番組でたしかに分ったのは、幼児を虐待する母というのは必ずしも鬼畜の母ではないということだ。育児に疲れて世間から孤立しているのだ。子供がむずがると、あんたの育て方が悪いと責められて行き場をなくして、子供に怒りのエネルギーが向いて行く。
このドキュメンタリーの副題は「48時間の約束」。これは、4年前に通報を受けてから48時間以内に子供を目で見て確認するという取り決めを、相談所が決定したことを指す。なぜ48時間なのかベテランの指導員が語った言葉が心に残る。
「どんな厳しい状況にあっても48時間は生き延びてくれ、という子供との約束なんだよ」
須藤氏が最後のインタビューにこう答える。「虐待とは大人の苛立ちだろう。この辛い閉塞状況のなかで、大人が弱い子供にぶつかってゆくのだ。象徴している、今の日本を。
この状況は、一人一人の親の問題というものでなく、日本全体の責任だ。」
現場の声として重く響く。
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