とおい昔の記憶
こんな面白い番組は久しぶりだ。90分間断するところがなかった。
8月8日にハイビジョンで放送された「あの夏~60年目の恋文」だ。実話をもとに作られているからドラマではない。だが、ドラマのような思いがけない話の連続だ。
昭和19年の夏、戦局が悪化するなか、奈良の国民学校4年生の男子が教育実習でやってきた教生先生に憧れた。その年はさまざまなことがあった。やがて先生は去り、少年の心からも消えて行った。それから60年経った。
2003年8月、少年岩佐は70歳の老人となりテレビを見ていた。79年に制作されたアーカイブス番組だ。その中のある場面で彼は画面に釘付けになる。画面に映ったのは、少年の頃憧れた、あの雪山先生だった。今は東京で暮らす岩佐は、思い余って雪山先生に手紙を書いた。それがきっかけとなって始まった往復書簡。その顛末が描かれた番組である。
「突然の手紙を差し上げるご無礼をお許しください。・・・あの昭和19年夏、ご本人の計りしれぬところで、あれほどまでに恋い焦がれていた少年がいたことを、素直に受け止めていただきたいと思うのです。」
この文通が始まったとき、女は姫路に住み、80歳。男は70歳の翁となっていた。
文通はさまざまな記憶を呼び覚ましてゆく。二人の手元に残されていた集合写真――34人の男子生徒と先生が映っている。
さらに、そのとき雪山先生がつけていた教生日記も発見される。そこには恋い焦がれていた岩佐ですら忘却していた、少年の日の甘美な思い出がしっかり記録されていたのだ。
(このあたりが、まるでドラマとしか思えない)
先生に少年は負ぶわれて帰っていた。そのことを少年は忘れていた!
この番組は、雪山先生の孫で現在教生に追われている有希の眼を通して描かれる。その彼女が祖母を見てこう語る。
「突然、祖母の中で、映写機が回り始めた」
人生の最終盤を迎えて尚、もう一度人生を生き直す人々の美しさ。
旧制雪山こと川口汐子、80。映像作家岩佐寿弥、70。
まもなく、この90分の番組が編集されて、総合テレビで放送される予定だ。ぜひ、見逃すことないでほしい。できれば、ハイビジョンで放送された90分版も地上波で放送されるといいのだが。
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