椿書院誕生
今朝起きて、なにげなくテレビをつけたら「にっぽん再発見 ハイビジョンふるさと発」を放送していた。高松局が1年をかけて作り上げた作品である。ほんの少しだけ見るつもりでいたがとうとう最後まで見た。番組になにかを感じた。
物語の舞台はさぬきのこんぴらさんとして知られる香川県の金刀比羅宮。そこの書院に巨大な障壁画がえがかれる過程を丹念に取材したドキュメンタリーだ。
主人公は地元出身の美術家田窪恭治。この人物が魅力的だ。
先年、フランスノルマンジーの荒れた教会を再建して有名になった人だ。無住の廃墟となった教会を現地に住み込んで再建してゆく姿をとらえたドキュメンタリーを、どこかで見たことがある。11年もかけて異国の村でこつこつやってゆく姿は心に残った。なかなか味わい深い生き方をする人だと感心した。このとき、再建された礼拝堂の壁画に林檎を田窪は描いた。
金刀比羅宮の伽藍の中に白書院と呼ばれる大きな部屋がある。
その側壁と床の間に、田窪が描こうとしたのは藪椿の木と花であった。これはこんぴらさんの全山に冬期咲く花である。それが、この山にエネルギーを与えていると感じて田窪は絵のテーマとして選ぶ。田窪はノルマンジーの林檎といいこんぴらさんの椿といい、その風土を作り上げる地霊のようなものを鋭敏に感じ取る。椿を選択したことは正しかった。番組が進行するにつれ分かってくる。
田窪は高校時代この香川で過ごし、今の金刀比羅宮宮司の琴陵容世さんが級友だった。その伝手で奥書院を見せてもらった。そこには伊藤若冲の絵が部屋一面に描かれていた。そのとき味わった感動が彼を美術の道に導く。
四季の移り変わりと合わせて、壁画制作が進行してゆく。この金刀比羅宮の裏参道を田窪は気に入っているのだが、全山椿だ。風が抜けて椿が揺れる。赤い花が咲き、かつ散る。
そうして今年の初夏に、絵が完成する。20メートルにわたるふすま一面に満開の花を咲かせる巨大な藪椿の林が描かれていた。実に感動的な絵であった。
ただ、不思議に思えたのは、なぜこういう寒い時期が中心に描かれた作品が夏の盛りに放送されるのか、それだけが気になった。
加賀美幸子さんの語りは抑制がきいていて素晴らしかった。
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