福耳落語
三宮麻由子さんというエッセイストがいる。4歳のとき光を失っている。彼女の言葉を使えばsceneless 。
以前、この人が出演する旅番組を見て感心したことがある。盲目ということを、まったく引け目に思っていない。それは一つの個性という感じで、旅を進める姿が小気味よかったのだ。
この人の書いたエッセー「鳥が教えてくれた空」は、実に文章がいい。次に出した「そっと耳を澄ませば」で日本エッセイスト賞を受賞したほどだ。
この人が今度落語の本を出した。今、落語ブームだということは承知している。あの中野翠さんも落語の新書を出していた。
中野さんの場合、志ん朝師匠がごひいきで、その新書自体、彼へのオマージュというかラブレターに読めた。あの、気難しそうな中野さんの意外な一面を見た気がしたものだ。
閑話休題。 三宮さんは目が不自由なことをものともせず、落語好きが高じて、実際に高座にあがって落語の場を体験するくだりまで、この本に書かれている。この人の好奇心は止まるところがない。
小三治師匠の「小言念仏」を聞いて、どじょう鍋に興味をもつのだ。あげく、調理するときにどじょうが鳴くと知って、どんな声だろうと、「駒形どぜう」まで出かけていくのだ。浅草の老舗だ。その調理場へ入って、実際に板前さんがどじょうをさばくのを“聞く”のだ。その経緯、顛末を軽快に、三宮さんは書いている。この文章の最後には彼女の句までついている。
小三治のさげなど語り泥鰌鍋
うまい。
この本の編集者と私は友達なもので、今出来上がったばかりの本を届けてもらって一気に読んだのだ。版元はNHK出版。
本日の発売である。そうだ、大事なことを忘れていた。この本の題は「福耳落語」。このタイトルの付け方がまた実にいいのだ。
これを読んでいるうちに、落語が聞きたくなった。エンターテインメント部へ行って、何かないかなあと問うと、ありました。なんと橘家圓蔵だ。さすが、番組の制作会社だ。
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