ひばり、伝説の東京ドーム④
1988年4月11日晴、コンサート本番の日となった。 午前11時過ぎ、ひばりは東京ドームの楽屋に入った。体調を考慮してステージから一番近い部屋を急遽楽屋にした。酸素吸入器も用意された。専属バンドの指揮者、チャーリー脇野は、リハーサル前に打ち合わせを兼ねてあいさつにひばりの楽屋を訪れた。そこで見た姿は思いがけなかった。鏡の前の椅子にこしかけていると思っていたら、横になっていたのだ。
「ひばりさんが寝てるのですよ。その方が起き上がってね、さあ、行こうかって―― 」普通の人ならとても歌を歌える状態ではない。このときチャーリー脇野は、事態が相当深刻だということを知ったのだ。
午後5時開場、続々と観客が入場してくる。各界の著名人も多数来場していた。和也は接客に追われていた。母の側に付いていてやりたかったがそうもいかない。各現場との連絡や警備など、やらねばならないことが山ほどあった。
「ここまで来たらやっぱりうちの大将をステージに乗せなきゃいけないわけじゃないですか。僕の出来る範囲っていうのがね、あのときには限られてましたが、ただその中でどれだけファンの皆さんに喜んでもらえるかという思いで必死でした。」
午後7時、『終わりなき旅』の前奏が流れだし、オーロラヴィジョンの巨大画面に美空ひばりが映しだされる。大きな歓声があがる。コンサートは始まった。●終わりなき旅→悲しき口笛→東京キッド→越後獅子の唄→私は街の子→あの丘越えて→お祭りマンボ→ひばりのマドロスさん→三味線マドロス→波止場だよお父つぁん→鼻唄マドロス→初恋マドロス→港町十三番地→花笠道中→車屋さん、そして柔、と曲は続く。全16曲歌い終えて、ひばりは初めてあいさつする。
「皆様、本日はようこそお越しくださいました。皆さんの愛に支えられ、ひばりはまた羽ばたくことができます。私の感謝の気持ちを歌に託して、最後までがんばりたいと思います。どうかご声援のほどよろしくお願いします。」
さきほどまで、楽屋で横たわっていた人物が16曲を立て続けに歌って、大観衆に向かって挨拶をしたのだ。
万雷の拍手が起こる。その中から次の曲「みだれ髪」のイントロが流れ出す。ひばりは静かにマイクに向かってゆく。
●みだれ髪→塩屋崎→津軽のふるさと→りんご追分と、ひばりは一気に歌いあげた。そして照明が溶暗する。ここでひばりは20曲歌って第一部を終えた。ひばりは倒れずになんとか前半を乗り切った。
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